2022/05/06【貝毒:食中毒】潮干狩りシーズン到来で気になる「貝毒」って何? 医師に聞いた注意すべき貝の種類、食中毒の症状

■ハマグリ・アサリで食中毒も……無害な貝が毒化する貝毒とは

4~5月は潮干狩りシーズン。家族みんなでアサリやハマグリなどを採りに海へ向かう方も多いことでしょう。採った貝を自宅で調理して食べるのもまた楽しみの1つです。
潮干狩りを楽しい思い出にするためにも、医師として注意を呼びかけたいのが「貝毒」です。
2017年4月、愛知県で採れたアサリから国の規制値を超える麻痺性貝毒が検出され、愛知県内では半数以上の潮干狩り場が休業を余儀なくされました。また、2018年5月には、岩手県で国の規制値を超える麻痺性貝毒が検出され、ホタテガイ出荷の自主規制が発表されました。
2022年4月19日には淀川下流部で漁獲されたシジミから、国の定める規制値を超える麻痺性貝毒が検出されたことが発表されました。このように毎年、何らかの発表があります。
アサリ、ハマグリ、ホタテなどの二枚貝は本来は毒を持たない貝ですが、時期や場所によって貝毒による食中毒のリスクがあります。貝毒の原因、種類、症状・対処法をみていきましょう。

■「普通の貝」が毒化する貝毒の発生原因・種類

▼貝毒の発生原因・メカニズム貝毒による食中毒は、いわゆる毒キノコなど元々危険なものとは異なり、アサリやハマグリ、牡蠣、ホタテなど、本来は毒がなく、普通に食べられる貝によって起こる点に注意が必要です。これは有毒プランクトンによって、本来は毒を持っていない貝が毒化することで起こるためです。
日本では、貝類による食中毒防止のため、定期的に有毒プランクトンの出現を監視、かつ貝類の毒性値を測定し、規制値を超えたものの出荷を規制しているため、貝毒で救急搬送される人はそれほど多くはありません。
▼貝毒の種類……日本では麻痺性貝毒・下痢性貝毒の2つ貝毒の種類としては、日本で発生しているものは麻痺性貝毒、下痢性貝毒の2つがあります。これまでに日本で報告がないものとしては、記憶喪失性貝毒、神経性貝毒、アザスピロ酸などもあります(2022年4月現在)。
また、食中毒ではなく、もともと体内に毒を持つイモガイも危険です。
潮干狩りで注意すべきこれらの貝毒について、それぞれの毒性や治療法を以下で解説します。貝毒の症状が出た場合は、できるだけ早く病院を受診しましょう。

■麻痺性貝毒の原因プランクトン・症状・治療法・予防法

麻痺性貝毒は、サキシトキシンやネオサキシトキシンなどの毒によって起こります。これらは神経同士や、神経と筋肉の間の伝達を障害する神経毒です。
水に溶けやすく、加熱にも強い毒で、人への致死量は1~2mgと推定されています。弱酸性にも強いですが、アルカリ性で不安定になります。これらの毒は、貝類では主に中腸腺と呼ばれる臓器に濃縮されています。
▼毒化する貝の種類と原因プランクトン毒化する貝は、ホタテガイ、アサリ、 アカザラガイ、マガキ、ムラサキイガイなど二枚貝が多く、その他、マボヤとウモレオウギガニなどのカニでも麻痺性貝毒による食中毒が報告されています。
毒化原因のプランクトンは、日本ではアレキサンドリウム(Alexandrium tamarense, Alexandrium catenella, Alexandrium tamiyavanichii)、ギムノディニウム (Gymnodinium catenatum)とされています。
▼麻痺性貝毒の症状食後約30分程度で、唇、舌、顔面などがしびれが始まり、手足の発熱感が見られ、呼吸筋の麻痺による呼吸困難を起こし、放置すれば、死に至ります。
▼麻痺性貝毒の治療法・予防法特効薬はなく、呼吸困難に対しては、人工呼吸器による呼吸管理で、体内で無毒化されるまで待つことになります。一般的な調理加熱では毒は分解されないため、加熱しても安心できません。予防法は、毒化した貝を食べないことです。

■下痢性貝毒の原因プランクトン・症状・治療法・予防法

下痢性貝毒は、オカダ酸などの毒で小腸の粘膜が障害されて起こります。市販の貝での発生は起こっていません。油に溶けやすい脂溶性で、加熱に強く、人への症状を起こす量は約30μgとされています。これらの毒は貝類では、主に中腸腺と呼ばれる臓器に濃縮されています。
▼貝の種類と原因プランクトン毒化する貝は、ムラサキイガイ、ホタテガイ、 アカザラガイ、アサリ、イガイ、イタヤガイ、コタマガイ、チョウセンハマグリ、 マガキなどの2枚貝です。中でもムラサキイガイには毒化例が多く、毒性値も高いので要注意です。
毒化原因のプランクトンは、日本ではジノフィシス(Dinophysis fortii, Dinophysis acuminatai)、プロロセントラとされています。
▼下痢性貝毒の症状食後30分から4時間以内に下痢、吐き気、嘔吐、腹痛などの消化器症状が見られます。多くは3日以内に回復し、後遺症もなく、死亡例もありません。
▼下痢性貝毒の治療法・予防法特効薬はなく、腹痛に対しては痛み止め、吐き気、嘔吐には吐き気止め、下痢には下痢止めなどの対症療法です。一般的な調理加熱では毒は分解されないため、こちらも加熱では安心できません。予防法はやはり毒化した貝を食べないことと言えます。
※以下の記憶喪失性貝毒、神経性貝毒、アザスピロ酸は、日本で報告されていない貝毒です(2022年現在)。

■記憶喪失性貝毒の原因プランクトン・症状・治療法

ドウモイ酸などの毒で、神経細胞を障害する神経毒で、脳内に毒が入ると、記憶に関わる海馬、視床、扁桃体細胞が破壊されてしまいます。
水に溶けやすく、加熱に強く、人への症状を起こす量は軽症で60~110mg、重症で115~290mgであったとカナダでの中毒例で報告されています。日本では、幸い起こっていません。
▼貝の種類と原因プランクトン毒化する貝は、ムラサキイガイ、イガイ、 ホタテガイ、マテガイなどで、甲殻類、魚類、アシカなどにもみられると報告されています。
毒化原因のプランクトンは、珪藻シュードニッチャ(Pseudo-nitzschiamultiseries、Pseudo-nitzschiaaustrali、Pseudo-nitzschia seriatas)、アンフォラ です。
▼記憶喪失性貝毒の症状食後数時間以内に吐気、嘔吐、腹痛、頭痛、下痢が起こります。重症例では、記憶喪失、混乱、平衡感覚の喪失、 けいれんがみられ、最後には昏睡により死亡することもあります。
▼記憶喪失性貝毒の治療法特効薬はありません。一般的な調理加熱では毒は分解されません。日本では発生がないためか、規制などはありませんが、海外の規制値が参考にされています。

■神経性貝毒の原因プランクトン・症状・治療法

視覚神経性貝毒 ブレベトキシンで、神経と筋に作用する神経毒で、油に溶けやすい脂溶性で、加熱に強く、中毒量は不明です。アメリカやニュージーランドで発生していますが、日本では幸い起こっていません。
▼貝の種類と原因プランクトン毒化する貝は、ミドリイガイやマガキなどの二枚貝。毒化原因のプランクトンは、渦鞭毛藻(Karenia brevis)です。
▼神経性貝毒の症状食後1~3時間後に、口内のしびれとひりひり感、運動失調、温度感覚異常などの神経障害が出てきます。さらに吐気、腹痛、下痢、嘔吐などの消化器症状も見られます。死亡した報告はありません。
▼神経性貝毒の治療法特効薬はありません。一般的な調理加熱では毒は分解されません。日本では発生がないためか、規制などはありませんが、アメリカの規制値が参考にされています。

■貝毒アザスピロ酸の原因プランクトン・症状・治療法

アザスピロ酸は、小腸細胞を障害する毒で、油に溶けやすい脂溶性で、加熱に強く、中毒量は不明です。オランダ、アイルランド、イギリス、イタリア、フランスなどヨーロッパで発生していますが、日本では幸い起こっていません。
▼貝の種類と原因プランクトン毒化する貝は、ムラサキイガイ、 ホタテガイ、アサリ、マガキなどの二枚貝。毒化原因のプランクトンは、プロトペディニウム(Protopedinium)です。
▼貝毒アザスピロ酸の症状吐気、嘔吐、腹痛、激しい下痢が3~18時間程度続きます。死亡した報告はありません。
▼貝毒アザスピロ酸の治療法特効薬はありません。一般的な調理加熱では毒は分解されません。日本では発生がないためか、規制などはありませんが、アメリカの規制値が参考にされています。

■体内に神経毒をもつ「イモガイ」の症状・治療・予防法

最後に、もともと体内に神経毒をもつ危険生物「イモガイ」について解説します。イモガイは房総半島や能登半島より南、特に沖縄や鹿児島に多く生息しています。
▼イモガイの毒性イモガイは肉食性で、円錐形の貝殻をもっており、歯舌が発達した神経毒の入った毒銛(矢舌)を小魚などの獲物に向けて撃ち、獲物を麻痺させて捕食します。
神経毒はコノトキシンと言って、神経の伝達を抑える毒で、神経麻痺が起こります。イモガイ1個体の神経毒は、30人の致死量に達すると言われています。
▼イモガイによる貝毒症状症状は、刺された部分にしばらくして激痛、腫れ、しびれが生じ、めまい、嘔吐、発熱、視力の低下、血圧の低下、全身の麻痺、さらには呼吸筋が麻痺して、呼吸不全になって死亡することもあります。
▼イモガイ中毒の治療・予防法特効薬はありません。呼吸困難を起こした場合に、人工呼吸器による呼吸管理を行い、体内の毒が無毒されるのを待つことになります。予防は、海岸で円錐型の貝を素手に安易に触らないようにすることです。
イモガイのように神経毒を持つ貝から身を守ることはもちろんですが、上記で解説した通り、本来、毒性のない貝がその周りの環境によって毒性を持つこともあります。各自治体などのホームページで貝毒情報が出ていますので、その情報には十分注意して、潮干狩りシーズンを楽しみましょう。
各都道府県では、安全な貝類が出荷されるために、貝毒の発生を監視し、出荷前に検査しています。規制値を超える場合に出荷を規制されているために、近年は、市販されている貝類による食中毒は報告されていません。
▼清益 功浩プロフィール小児科医・アレルギー専門医。京都大学医学部卒業後、日本赤十字社和歌山医療センター、京都医療センターなどを経て、大阪府済生会中津病院にて小児科診療に従事。論文発表・学会報告多数。診察室に留まらず多くの方に正確な医療情報を届けたいと、インターネットやテレビ、書籍などでも数多くの情報発信を行っている。
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