2022/05/16【新型コロナウイルス:COVID-19】新型コロナ「東京都の時短命令は違法」賠償は認めず 東京地裁 /東京都

新型コロナの緊急事態宣言の期間中、営業時間の短縮要請に応じていないとして東京都から特別措置法に基づく時短命令を受けた飲食店の運営会社が命令は不当だとして都に賠償を求めていた裁判で、東京地方裁判所は「命令を出す必要があったとは認められず違法だ」とする判決を言い渡しました。一方で都に過失があったとまではいえないとして賠償を求める訴えは退けました。
飲食店の運営会社「グローバルダイニング」は緊急事態宣言が出されていた去年3月、東京都から「午後8時以降も営業を続け感染リスクを高めている」として、特別措置法に基づき営業時間を短縮するよう命令を受けたのは不当だと主張して都に賠償を求めていました。
16日の判決で東京地方裁判所の松田典浩裁判長は「原告の飲食店は感染対策を実施していて、夜間営業を続けていることで直ちに感染リスクを高めていたとは認められない。都からはこうした状況で命令を出したことの必要性や判断基準について合理的な説明もなかった。原告に不利益となる命令を出す必要が特にあったとはいえず違法だ」と指摘しました。

■賠償求める訴えは退け 憲法違反の主張も認めず

一方で「都が意見を聞いた学識経験者はこぞって命令の必要性を認めていたうえ、最初の事例で参考にする先例もなかった。都知事が裁量の範囲を著しく逸脱したとまでは言い難い」として、都に過失はなかったと判断し賠償を求める訴えは退けました。
また会社は特措法や命令が営業の自由や法の下の平等などを保障した憲法に違反しているとも主張していましたが、判決は「命令で営業を規制することは特措法の目的に照らして不合理な手段とはいえない」として憲法には違反しないと判断しました。
コロナ対策の特措法に基づく命令をめぐる裁判で判決が言い渡されたのは今回が初めてです。

■都が「命令」出した当時の状況は

東京都には去年1月8日から3月21日にかけて、新型コロナウイルスの特別措置法に基づいて緊急事態宣言が出されていました。
この間、都は、都内の飲食店などに対して、営業時間を午後8時までにするよう要請していました。
都が、グローバルダイニングに対して要請に応じていないとして「命令」を出したのは去年3月18日です。
緊急事態宣言が解除される3日前でした。
東京都内では、この前年の2020年11月ごろから感染者数が増加し始め、2020年の大みそか、12月31日に初めて1000人を超えました。
その後、年が明けて去年1月7日に2500人を超えていわゆる第3波で最も多くなりましたが、その後は徐々に減っていき、都がグローバルダイニングに「命令」を出した3月18日は323人でした。
7日間平均でみると▽第3波で最も多いのは1月11日の1861.1人だったのに対して、▽都がグローバルダイニングに「命令」を出した3月18日はおよそ6分の1の297.1人でした。

■運営会社社長「なぜすべて認めてくれなかったのか」と控訴

判決について「グローバルダイニング」の長谷川耕造社長は「主張の75%は認められたがなぜすべて認めてくれなかったのか」として、控訴したことを明らかにしました。
そのうえで「私たちのケースでは正当な理由がなく命令が出されたということが認められたので、今後、ほかの店についても行政は緻密に判断してくれるようになると思う」と話しました。
また、弁護団の倉持麟太郎弁護士は「判決は、同調圧力の中で『我慢すべきだ』という風潮や、『なんとなく』従うという社会の空気がある中、感染防止の効果を考えて判断すべきという最後の一線を守った。社会の風潮にも影響を与えると思う」と話していました。

■都の担当者「判決文を精査したうえで今後の対応検討」

東京地方裁判所が特別措置法に基づいて東京都が出した時短命令は必要があったとは認められず、違法だと指摘したことについて、都の担当者は「判決文を精査したうえで今後の対応を検討する」と話しています。

■判決のポイント

感染対策を理由に行政が営業を制限したことが妥当だったかどうかが争われた今回の裁判。判決のポイントです。

■命令を出す必要があったか

判決が都が出した命令を違法と判断した最大のポイントは「命令を出す必要性」です。
特別措置法では、新型コロナのまん延を防ぎ、国民の生活や経済の混乱を回避するために「特に必要があるとき」に限り、命令を出せると定めています今回の命令が出された当時、都内では2000あまりの飲食店が夜間営業を続けていました。
判決はこうした状況をふまえ、原告の飲食店がそのうちの1%ほどにすぎず、座席の間隔を空けたり、換気や消毒を行ったりするなど感染対策もしていたことなどから「夜間営業を続けたとしてもただちに人の流れを増大させ、市中の感染リスクを高めていたとは認められない」と指摘しました。
また、緊急事態宣言が3日後には解除されると発表されていたことも挙げ「対象地域の感染者数は大幅に減少し、医療提供体制のひっ迫状況も緩和されていた。こうした状況であえて4日間しか効力がない命令を出す必要性について合理的な説明がなかった」としてグローバルダイニングに命令を出す必要が特にあったとはいえず、違法だと認めたのです。

■賠償を認めなかった理由は

一方で、訴えが退けられたのはなぜでしょうか。
判決はまず、グローバルダイニングには命令を出す必要はなかったが、▽学識経験者がこぞって命令の必要性を認め、▽先例もない中、感染防止対策を確実に実行することが重要とされていた都が飲食店側の考え方を優先して命令を控えることは難しかったと判断し、都に過失があったとまではいえないとしたのです。

■憲法違反の主張については

裁判では特措法や命令が営業の自由などを保障した憲法に違反するかどうかも争われましたが、判決は「特措法の目的を考えると命令による規制が不合理とはいえず、憲法には違反しない」と指摘しました。
また、原告は「夜間営業を続ける考えを社長が表明したことを問題視して出された命令で、表現の自由に違反する」とも主張しましたが、これについては「命令は会社への報復や見せしめではなく、違法な目的があったとは認められない」として認めませんでした。

■専門家「意味のある判決」

今回の判決について、憲法が専門で、新型コロナと法律の関係に詳しい慶應義塾大学の大林啓吾教授は「裁判所が命令を出す際の必要性について細かく判断しており、今後、同じようなケースで命令を出す際には慎重に検討しないといけないという指標が示された」と話しています。
また、判決が命令は違法だとしながら、賠償を認めなかった点については「今回の命令が初めてのケースだったことが大きい。逆にいえば、今後、同じような状況で命令が出された場合、賠償も認められる可能性が出てきたということだ」と指摘しました。
そのうえで今回の裁判について「これまでのコロナ対策が合理的であったかや、憲法に違反するかどうかが司法に投げかけられたテストケースであり、裁判所がある程度踏み込んだ判決を出したことは意味があるものだと思う」と話しています。

■官房長官「コメントは差し控えたい」

松野官房長官は午後の記者会見で「地方自治体に関わる訴訟で詳細は承知しておらず、政府としてコメントは差し控えたい」と述べました。そのうえで「新型コロナ対策はこれまでも専門家からの分析や評価をもらいながら対策を進めている。引き続き感染状況などを踏まえ、専門家の意見も聞きつつ適切に対応していきたい」と述べました。

■小池知事「命令は必要かつ適正なものだった」

判決を受けて東京都の小池知事は16日の夜、コメントを出しました。
この中で小池知事は「命令を発出した当時、新規感染者数は下げ止まり、入院患者数も増加の兆しを見せていた。政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会では、飲食の場は感染リスクが高いとされており、飲食店に対する営業時間の短縮要請は、感染拡大防止において極めて重要な取り組みであった」としています。
そのうえで「都は特別措置法に基づき、都内の飲食店に対して営業時間の短縮を要請した。その順守状況を現地で確認のうえ、繰り返しの要請に応じていただけない店舗に対して命令を実施した。この命令は、医療や経済、法律などの専門家から妥当であるとの意見を得るとともに、国とも情報を共有しつつ発出したものである」としています。
そして「こうしたことから今回の命令は、都としては、感染防止対策上、必要かつ適正なものであったと認識している」とするコメントを出しました。

■都の担当者「違法指摘は不服」

都の担当者は判決の受け止めについて記者団の取材に応じました。
この中で、原告のグルーバルダイニングに時短命令を出してから4日間で緊急事態宣言の期間が切れる中、命令の必要性について合理的な説明がなされていないと判決で指摘されたことについて「残り期間が少ないから命令に応じる必要がないとなれば、緊急事態宣言の期間の終盤は要請に従わなくてもいいとなりかねない」と反論しました。
また、原告への命令について「都の対策審議会では原告が要請に応じないことに対して他の店から不公平感が生じていると指摘があり、原告の売り上げが増加し店舗に客が流れているという報道もあった。原告以外の店舗でも売り上げを増やすために夜間営業をする可能性があった」と述べ、命令を出したことは必要だったという認識を示しました。
都の担当者は「判決で違法だと指摘されたことについては不服だ」としたうえで「営業時間を1日、2日、守っていないからといって出したわけではなく、繰り返し要請して、やむなく命令を出している。今後も丁寧にやっていきたい」と述べました。
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