2022/05/25【研究報告】系列飲食店利用が共通の曝露源と疑われた腸管出血性大腸菌による食中毒等事例 (IASR Vol. 43 p112-114: 2022年5月号) /国立感染症研究所

2021(令和3)年3月下旬~4月上旬にかけて, 都内保健所に腸管出血性大腸菌(EHEC)感染症発生届が相次ぎ提出された。患者から検出したEHEC О157(VT1&2)菌株を検査したところ, 複数の散発患者で反復配列多型解析(MLVA)型が一致し, 喫食調査から患者らは全国展開する系列飲食店(以下, 系列飲食店とする)をそれぞれ利用していたことが判明した。都内で調査を行った系列飲食店は3施設であり, そのうち1施設は食中毒と断定した。他2施設の調査結果等と併せて, その概要を報告する。

■食中毒と断定した事例

2021(令和3)年3月29日および30日に都内A保健所に計2名(患者aおよびc)のEHEC感染症発生届が提出された。また, 同年4月1日にX県内の保健所に1名(患者b)の同発生届が提出された。各患者(計3名)は日常の接点はないが, 管轄保健所が聞き取り調査を行った結果, いずれの患者も3月20日にB区内の系列飲食店①を出前で利用し, 牛ハラミ丼等を喫食していることが判明した。患者らの症状は, 腹痛, 水様性の下痢, 血便等であり, 3月22~24日にかけて発症していた。都内の医療機関または検査センターで分離され, 東京都健康安全研究センターに搬入された患者2名由来の2株を対象に分子疫学解析等を実施した。血清型はO157:NM, VT1&2産生性で一致していた。MLVAを実施した結果, 1株は21m0018(患者a), もう一方の株は21m0020(患者c)と, 異なるMLVA型であった。またX県で実施した患者b由来株の解析結果は21m0020であった。21m0018と21m0020は, 解析領域である17領域のうち1領域(EHC-2)が1リピート数のみ異なるsingle locus variantである(complex型:21c002)。MLVAで1領域違いは, 非常に近縁な関係と考えられることから, 3株は同一由来株であると推定された(表)。患者の症状および潜伏期間は, EHECによるものと一致した。患者の共通食は当該施設が調理, 提供した牛ハラミ丼のみであり, 他の感染源を疑う情報はなかった。以上のことから, B区保健所は, 系列飲食店①が調理, 提供した牛ハラミ丼を原因とする食中毒と断定した。

■有症事例

2021(令和3)年4月1日C区保健所に, 同月3日にD区保健所にそれぞれ1名ずつ計2名(患者dおよびe)のEHEC感染症発生届が提出された。患者への聞き取り調査の結果, 患者らは3月12~21日の間に, C区内の系列飲食店②からの出前で, 牛ハラミ丼またはハラミステーキを喫食していることが判明した。症状および潜伏期間はEHECによるものと一致していたが, 1名の患者が潜伏期間内に他施設で牛たたきを喫食していること等から, 系列飲食店②の食事による食中毒との断定には至らなかった。なお, 患者のMLVA型は2名とも21m0020であった。
2021(令和3)年3月27日, B区保健所に1名(患者g)のEHEC感染症発生届が提出された。患者は3月18日にB区内の系列飲食店③を利用し, 牛ハラミ丼を喫食していた。症状および潜伏期間はEHECによるものと一致していたが, 同様の苦情がないこと等から食中毒との断定には至らなかった。
また, 厚生労働省から2018(平成30)年6月29日付事務連絡「腸管出血性大腸菌による広域的な感染症・食中毒に関する調査について」に基づくMLVA情報が提供され, 上記食中毒事例および有症事例と同じMLVA型(21m0020)の患者がY県内に2名(患者hおよびi)いることが判明した。患者はY県内の系列飲食店④を2021(令和3)年3月20日に利用し, 牛ハラミ丼等を喫食していた。症状および潜伏期間はEHECによるものと一致していたが, 2名の共通喫食が他にもあったこと, 等から食中毒との断定には至らなかった。

■系列飲食店①の施設調査

1. 汚染経路の追求
患者が喫食した牛ハラミ肉は, パック入りの冷凍状態で納品され, 冷蔵解凍後にテンダライズ処理※されていた。施設では, 肉と野菜で作業エリアを分けており, 肉の調理に関しては生肉用と加熱済み用の調理器具が用意されていたが, 適切な使い分けおよび保管がされておらず, 交差汚染の可能性が考えられた。
※テンダライズ処理:食肉の筋および繊維を刃で短く切断する処理
2. 調理方法について
系列飲食店共通の加熱調理マニュアルが整備されていたが, 系列飲食店①では調理工程の一部がマニュアルと異なっていた。また加熱条件の検証が不十分であった。調理後の牛ハラミ肉を確認したところ, 中心部に赤みが残り, 加熱不十分な状態であった。

■原料肉のさかのぼり調査

系列飲食店①~③で使用されていた牛ハラミ肉は輸入品であり, E区内の販売業者から仕入れていた。E区内の販売業者における当該牛ハラミ肉の販売先は, 系列飲食店①~③を含む当該系列飲食店に限られていた。さらに輸入業者までさかのぼり調査を行ったが, 国内では加工行為はなく, 輸出国において加工, 包装されたものを販売するのみであった。国内のいずれの施設においても従業員に体調不良はなく, 同様の苦情は確認されなかった。系列飲食店および国内流通事業者では, 患者が喫食した牛ハラミ肉と同一ロット品がなく, 原料肉の汚染状況についての検査はできなかった。

■まとめ

本件は, 同時期に複数の散発患者から検出したEHECのMLVA型が一致, または1領域違いであったことから同一感染源によるものと推測されたが, 患者が共通して利用していた系列飲食店で使用された原料肉の流通にかかわる国内の事業者に加工等の行為はなく, 包装品の販売のみであること, 原料肉の同一ロット品がなく検査ができなかったことから, 原料肉の汚染の可能性について検証することができなかった。
しかし, 本件を受けて管轄保健所から当該系列飲食店の運営会社に対し, 食肉等を提供する際の加熱の徹底を指導した。運営会社からは, 再発防止策として科学的検証を行った加熱調理マニュアルを整備し, 全国の系列飲食店に対し衛生管理を徹底させる旨の報告があった。昨今, 持ち帰りや出前で飲食店を利用する機会が増えているが, 店内での喫食と比較すると調理してから喫食するまでの時間が長くなることから, 加熱を含めた調理工程等の衛生管理に, より一層留意する必要がある。
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