欧米を中心に、子どもに原因不明の急性肝炎が広がっている。日本では16歳以下の24人を確認。患者が急増する英国や米国と異なり、厚生労働省は「明らかな増加傾向」とは見ていない。世界中で原因究明が行われる中、新型コロナウイルス禍での感染対策や感染歴との関連が指摘されている。(沢田千秋、原田遼、佐藤航)
原因不明の小児肝炎は4月、英国で増加が報告され、各国に広がる。欧州疾病予防管理センター(ECDC)によると、16歳以下の小児肝炎は欧州を中心に米国やイスラエル、中南米など約30カ国で600人を超え14人が死亡した。
厚生労働省も昨年10月以降の国内症例を調べ、原因不明の小児肝炎を24人確認した。このうち、5月5日までに確認された男女7人の年齢の中央値は8歳。地域的な偏りはなく、肝移植や死亡例もない。
これまで急性肝炎の大半は大人で「小児の報告はまれ」(国立感染症研究所)。日本小児肝臓研究会によると、子どもの急性肝炎は軽症で自然治癒する場合が多く、18歳未満の重症例は毎年20人ほどだった。
現時点で24人という患者数について、感染研は「この定義で把握されてこなかった症例をきちんと調べて分かってきた。この時期にぐいぐい伸びている印象はない」と分析する。
一方、増加が顕著な英国では、小児肝炎患者の7割からアデノウイルスが検出された。日本の24人のうち2人も陽性だった。
アデノの症状はのどの痛みや胃腸炎、結膜炎などが知られる。日本小児栄養消化器肝臓学会メンバーで、埼玉県立小児医療センター消化器・肝臓科長の岩間達医師は「英国で起きているのは、日本で年間600人発生するような異常事態」とし、「アデノは子どもがよく感染するウイルスだが、健康な子の肝炎発症は知られていなかった」と驚く。
なぜ、ここへ来て、アデノは子どもの肝炎を引き起こしているのか。英国健康安全保障庁(UKHSA)は、新型コロナの間接的、直接的影響について仮説を立てる。
間接的影響は、新型コロナ禍の厳しい感染対策で、ウイルスにさらされる機会が減り、免疫が備わっていないという説。岩間氏は「子どもは通常、1、2歳でほとんどのウイルスにかかり、免疫が鍛えられる。ただ、この仮説なら、国内でもすでに肝炎が増えているはず」と懐疑的だ。
直接的影響は、新型コロナ感染による免疫システムの変化だ。京都大大学院の西浦博教授(環境衛生学)は、UKHSAの仮説について「オミクロン株の(事前)感染で、アデノが肝細胞に侵入しやすくなるプライミングという現象が誘起されるという考え方がある。そもそも、新型コロナは肺だけでなく肝臓への親和性も高い」と説明する。
イスラエル紙ハーレツ電子版によると、同国で過去4カ月間、肝炎で入院した子ども12人中11人は新型コロナ感染歴があった。米ワシントン・ポスト紙電子版も、米国の子どもの4分の3、英国では国民の95%以上が新型コロナの抗体保持者だとして、感染歴と小児肝炎の関連を指摘する。
国内の24人の新型コロナ感染歴は非公表で、感染研の担当者は「ある程度まとまった段階で分析結果を示す」としている。