2022/06/11【コレラ菌】ウクライナ・マリウポリでコレラ集団感染の恐れ=英国防省 /ウクライナ
英国防省は10日、ロシアの徹底攻撃を受けて制圧されたウクライナ南東部マリウポリで感染症コレラが大発生する恐れがあると、懸念を示した。
英国防省は10日のウクライナ現況分析で、「ロシアは、ロシアが占領した地域の住民に基本的な公共サービスをなかなか提供できずにいる。安全な飲料水は安定して手に入らず、電話やインターネット・サービスの大々的な寸断も続いている」と指摘。その上で、ヘルソンでは医薬品の不足がおそらく深刻で、マリウポリでは大規模なコレラ発生の危険がある。個別のコレラ感染症例はすでに5月から報告されている」と述べた。
「ウクライナは1995年にコレラの大規模感染が起きており、その後も小規模な集団感染を経験している。特にアゾフ海沿岸の周辺での発生が多く、マリウポリもここに含まれる。マリウポリの医療サービスはおそらくすでにほとんど破綻しており、マリウポリで大規模なコレラ感染が起きれば、事態はさらに悪化する」と、同省は懸念を示している。
国連によると、マリウポリでは市内のインフラの大半が破壊もしくは損傷し、飲料水や生活用水に下水が混ざりこんでいる。赤十字国際委員会(ICRC)も、衛生インフラの破壊によって、水系感染症の拡大リスクが高まったと警告している。
マリウポリ市議会もこれまでに、コレラの集団感染が起きれば、数万人が犠牲になる恐れがあると警告。医薬品や医療施設の不足などが「爆発的」な大規模感染の要因になり得るとしている。
コレラは通常、コレラ菌に汚染された食べ物や水を口にしたことから感染する。下水道の破壊やごみの未回収などによる衛生状態の悪化が、発生につながることが多い。回収されない遺体が放置されていれば、それも感染源になる。
重症者は激しい下痢によって重度の脱水状態になるため、輸液と抗生物質による手当てが急ぎ必要になる。軽症や無症状で済む場合もあるが、感染者の便にはコレラ菌が含まれるため、感染源になる。
マリウポリのウクライナ側の市長、ヴァディム・ボイチェンコ氏はBBCウクライナ語に、「コレラや赤痢といった感染症がすでに市内で発生している」と話し、感染拡大を防ぐためにすでに市街地を封鎖したと述べた。
「(ロシア軍は)この街の感染症病院を破壊し、医療器具を破壊し、医師たちを殺した」とBBCに話した。
ボイチェンコ氏の話す内容をBBCは独自に検証できていない。ロシア政府が任命した市長は、市内で定期的な検査を繰り返しているが、コレラの発生は報告されていないとしている。
ウクライナ保健省は、マリウポリの状況について十分な情報が得られていないものの、ウクライナ統治地域で行った検査では、症例が見つかっていないと説明している。
別のウクライナ人マリウポリ当局者も今月8日に通信アプリ「テレグラム」で、市内では「壊滅的」に医療従事者が不足しており、ロシア任命の市当局は、引退した医師たちに現場復帰を促していると書いた。80歳以上の元医師たちも、その対象になっているという。
■劣悪な衛生状況
南東部の要衝マリウポリは3カ月近いロシアの徹底攻撃の末に、ロシアに制圧された。破壊されつくした市内では今や、衛生状況が劣悪な状態になっているとされる。破壊された建物のがれきなどがそのまま残り、その下には遺体も残されているという。
首都キーウに住むアナスタシア・ゾロタロヴァさんはBBCに、「地面や建物の中にたくさんの遺体が残されて、そのまま腐っている。ゴキブリやハエが大量にいる。誰も回収しないごみも放置されている」とマリウポリの様子を話した。ゾロタロヴァさんの母親は今月初めにマリウポリを脱出したという。
ボイチェンコ市長は4月の時点で、すでに1万人以上の市民が死亡したと話していた。その後も激戦は続いたため、死者数はさらに増えているおそれがある。
ボイチェンコ氏によると、市街地の周辺ににわか仕立ての墓地が作られたほか、多くの犠牲者が民家の裏庭や公園や広場に埋められている。
対照的に、ロシアが制圧後に任命した今のマリウポリ当局は、学校に戻る子供たちやごみ回収車の写真などをソーシャルメディアに投稿し、正常な日常生活が戻りつつあると強調している。