2022/06/22【食中毒】アニサキスの食中毒とアレルギーは何が違う?夏場に増える食中毒「細菌・ウイルス・寄生虫」原因別の症状と対処法を専門医が解説
シリーズ「名医のいる相談室」では、各分野の専門医が病気の予防法や対処法など健康に関する悩みをわかりやすく解説。
今回は呼吸器内科の名医、南州会 三浦メディカルクリニックの井上哲兵院長が、夏場に増えるとされる食中毒について解説。原因となる細菌・ウイルス・寄生虫による食中毒の違いや対処法、また寄生虫アニサキスによる食中毒と似て非なるアニサキスアレルギーについても解説する。
■食中毒の原因と症状
食中毒は何らかの原因となる物質を食事などで摂取した時に発生します。食中毒はサルモネラ菌、大腸菌などの細菌性のもの、ノロウイルスなどのウイルス性のもの、アニサキスなどの寄生虫によるものが多く報告されています。
食中毒の症状は、下痢、吐き気、嘔吐などの消化器症状を中心に発熱、倦怠感が主なものです。
細菌性の場合、気を付けないといけないのは、大腸菌の種類によっては血便を伴うので便の性状等に十分な注意が必要です。
■細菌性の食中毒(1)「カンピロバクター」
細菌性の食中毒は保存、加熱が不十分な肉、魚、飲料水、手に生傷がある状態で触った食べ物を摂取することで発症します。
細菌性食中毒は、カンピロバクターやブドウ球菌などが代表的な原因です。高温多湿の時期に多くなることが例年認められていますが、冬も起きなくはないので十分注意が必要です。
細菌性の中で比較的多いカンピロバクターという原因菌があります。十分に加熱されていない肉、特に鶏肉、あるいは古い井戸水や生野菜が原因になります。またペットから感染することもあるので注意が必要です。
乾燥に弱く、加熱すれば菌は死滅するので、調理の際は十分な加熱を心がけて下さい。
食後2~7日の間に下痢、発熱、吐き気、腹痛、筋肉痛などの症状が出るのが特徴です。
■細菌性の食中毒(2)「ブドウ球菌」
ブドウ球菌は人の皮膚の常在菌です。手に傷があったりして食べ物を触ると原因になります。加熱した後の手作業、焼いた肉を切る際にブドウ球菌が食べ物に移ってしまうことも原因となります。
この菌が作る毒素は熱に強く、一度毒素が出来てしまうと加熱しても食中毒を防ぐことができないので注意が必要です。
食後30分~6時間程度で吐き気、腹痛などの症状が出ます。
■ウイルス性食中毒「ノロウイルス」
ウイルス性食中毒の代表格は、冬場に感染者が急増するノロウイルスです。
その多くは二枚貝、特に牡蠣が原因となります。牡蠣を生や十分に加熱しないで食べた場合に発症します。
古い井戸水からも感染するので注意が必要です。発生件数は大したことありませんが、一件あたりの患者数がずば抜けて多いのが特徴です。
ノロウイルスは熱に非常に弱いので、食品を85℃以上で1分間加熱すれば問題ありません。
感染者が利用したトイレや吐いた物からも感染するので、トイレを使用した後や嘔吐物を処理した後、そして食事前は必ず石けんでよく手を洗うことが肝要です。
アルコール消毒は効果が乏しいため、必ず石けんで手を洗うことを心がけて下さい。
食後1~2日で吐き気、ひどい下痢、腹痛などの症状が出るのが特徴です。
■寄生虫の食中毒「アニサキス」
寄生虫から来る食中毒の主な原因はアニサキスです。アニサキスに寄生された海産物を摂取し、生きたままのアニサキスが体内に入ることで発症します。
寄生率が高いのが、サバ、イワシ、カツオなどの青魚やイカです。
寄生された海産物が生きている場合の多くは、内臓に寄生していますが、釣り上げられ、魚が死んだ後に内臓の処理が遅れると、魚の筋肉内に移動することがわかっています。
刺身を食べた際に生きたアニサキスを摂取してしまうのはそのためです。
摂取後数時間以内に激しい胃痛を認め、悪心、嘔吐などの食中毒症状を引き起こします。
一般的な細菌性食中毒は、発熱、下痢、血便が見られますが、アニサキスではそれらは特徴的な症状ではありません。
アニサキス食中毒が心配な方は、冷凍解凍品を購入すると良いと思います。
マイナス20度で24時間の冷凍が必要です。家庭用の冷凍庫ではそこまで低温に達しないので注意が必要です。家庭用冷凍庫の場合は、48時間以上の冷凍時間を確保する必要があります。
また、非冷凍品のしめ鯖は、非常にリスクが高いので注意が必要です。酢でしめてもアニサキスは死滅しません。冷凍品のしめ鯖かどうかはパッケージでしっかりと確認してから購入されるのが良いと思います。
加熱でアニサキスを予防する場合は60℃以上で1分間の加熱が必要です。
■アニサキス食中毒とアレルギーの違い
アニサキス食中毒と似て非なる物としてアニサキスアレルギーがあります。
アニサキスアレルギーは食中毒ではなくて、食物アレルギーの一種です。アニサキスアレルギーの場合は、アニサキスの生死は関係なく、アニサキスの成分自体に反応します。
症状としては、蕁麻疹、咽頭掻痒感(喉のかゆみ)、重篤な場合はアナフィラキシーなどのアレルギー症状を引き起こすので注意が必要です。
アニサキス食中毒もアニサキスアレルギーもアニサキスが寄生しやすい青魚やイカを食べる際に注意が必要です。
アニサキスアレルギーが疑われる場合は、抗アレルギー剤などの処方で経過を見ていくことになります。
アレルギーがあるかどうかは、採血で行うIgE抗体検査を行えば判断が可能です。
ずっとサバアレルギーだと思っていたら、実はアニサキスアレルギーだったということは臨床上よくあるので気になる方は医療機関にご相談下さい。
■食中毒の対処法
生肉を食べるなどの細菌性食中毒を考えるべき摂取歴があれば、抗生剤投与が必要なのですぐに病院で受診して下さい。
一方、対症療法が中心となるノロウイルスを考えるべき牡蠣など二枚貝の食事歴があれば、脱水にならないように経口補水液などで水分をしっかり摂取して経過を診て下さい。
脱水が進行すると倦怠感が強くなって水が飲めなくなったりするので、その場合は速やかな医療機関の受診が必要です。
アニサキスが疑われる症状がある場合は、内視鏡による処置が必要なため病院受診が必要です。
経口補水液やスポーツドリンクなどで十分な水分摂取ができれば、無理に食事摂取をする必要は数日間はありません。飲水すら難しくなった場合は、速やかに医療機関を受診して下さい。
■食中毒の予防法
細菌性、ウイルス性食中毒を予防するには、食べ物を保存する際、温度管理を徹底する必要があります。スーパーなどで買ってきた場合はすぐに冷蔵庫に収納することが大事です。
調理の場合は、十分な加熱を心がけて下さい。
食事前の手洗いや手指消毒も重要です。最近コロナ禍で食中毒の発生が減少したという報告があります。手洗い、手指消毒の徹底はもちろんですが、マスク着用も重要なポイントのようです。ウイルスで汚染された手で口元を触ることが無くなったためと考えられています。