飲食店で提供される加熱不十分な肉が問題とされたニュースが続きました。一つは、食中毒が起きたラーメン店で提供された「鶏レアチャーシュー」、もう一つはテレビ番組で紹介された「鹿もも肉の刺し身」です。
加熱が不十分な鶏肉にはサルモネラやカンピロバクター、鹿肉にはE型肝炎、腸管出血性大腸菌、寄生虫などによる食中毒が起きる危険があります。安全に食べたいのなら、肉の内部まで十分に加熱する必要があります。ただ、鶏肉や鹿肉の生での提供には、現在のところ、法規制はありません。保健所は注意喚起や指導はしていますが、禁止までされていません。
一方で、生食用の牛レバーの飲食店での提供は2012年から、豚肉(内臓を含む)は2015年から食品衛生法で禁止されています。牛レバーや豚肉の生食が禁止されているのに、鶏肉や鹿肉が禁止されていないのは安全に食べられるからではありません。
鶏肉については一部地域の伝統的な食文化が背景にあります。宮崎県や鹿児島県では、できるだけ安全に生食できるよう独自の基準を設けており、全国で一律に禁止というのは乱暴です。とは言え、「鶏レアチャーシュー」は特別に加工された生食用の鶏肉を使ったわけでもなければ、伝統的な食文化でもありません。食中毒についての知識に欠けた飲食店が安易に提供したに過ぎません。
鹿肉や猪肉などのジビエについては猟師さんが生食していたと聞きます。自家消費にとどまり飲食店で広く提供されていたわけではないので、法律的にはジビエの生食は想定されていなかったのではないかと思います。新型コロナウイルスの起源はコウモリなどの哺乳類ではないかという説もあります。法律で禁止されているかいないかにかかわらず野生動物を生で食べるのは止めるべきです。
「新鮮なら大丈夫」「何度も食べたことがあるけど平気だった」と生食を擁護する意見がありますが誤りです。カンピロバクターやE型肝炎ウイルスはどんなに新鮮でも感染するリスクがあります。また、たまたま病原体に汚染されていなかったり、感染しても大した症状が出る前に自然に治ったりすることもありますが、だからといって次も安全とは限りません。
「愚行権(ぐこうけん)」といって「リスクを承知で食べたいものを食べる権利がある」という意見があり、一考の余地があります。ですが、飲食店で普通に食べられるものにそれほどの危険があるとは一般的には思わないでしょう。リスクが周知されていないからこそ、ラーメン屋でレアチャーシューが提供されたり、テレビ番組で鹿肉の刺し身が紹介されたりするのです。このままリスクに無頓着な飲食店で提供されることが続けば、法律で禁止されるのもやむを得ません。