2020/02/07【新型コロナウイルス】新型ウイルス、早期警鐘の中国人医師が死亡 自身も感染 /中国
中国・湖北省武漢から発生した新型コロナウイルスをめぐり、アウトブレイク(大流行)の可能性についていち早く警鐘を鳴らしていた医師が、7日未明に死亡した。入院先の病院が公表した。医師は先月、新型ウイルスに感染し治療を受けていた。
国家衛生健康委員会の最新のデータによると、中国での死者は、6日に新たに報告があった73人を含め636人に上っている。感染者は3万1161人となっている。
死亡した医師は、武漢中心医院の眼科医、李文亮氏(34)。先月、女性患者から新型ウイルスに感染した。
李医師の死亡をめぐっては各報道で食い違いが見られたが、人民日報によると、李医師は7日午前2時58分に死亡したという。
同僚に周知し、警察から口止め
李医師は昨年12月、2003年の世界的エピデミック(伝染病)を引き起こしたSARSに似た、とあるウイルスによる7つの症例に気が付いた。
同月30日、李医師はチャットグループに入っている同僚の複数医師に対し、アウトブレイクが起きていると警告するメッセージを送信。防護服を着用して感染を防ぐようアドバイスした。
しかしその後、警察から「虚偽の発言」をやめるよう指示された。
李医師の死亡をめぐる報道
李医師の死亡をめぐっては、環球時報や人民日報、そのほかの中国メディアが6日に先に報じた。
当初、6日午後9時30分に李医師の死亡が確認されたとして、中国のソーシャルメディア「微博(ウェイボ)」では大きな反響を呼んだ。
人民日報は、李医師の死亡は「国民の悲しみ」を引き起こしたとツイートした。
しかしその後、環球時報は、李医師には体外式膜型人工肺(ECMO)が取り付けられ、危篤状態にあると報じた。
「政府職員が介入」と
現場に居合わせたジャーナリストや医師は、BBCやほかのメディアに対し、政府職員の介入があったと証言。国営メディアは、李医師が今も治療を受けているという報道内容に変更するよう指示されたという。
人民日報はその後、李医師の死亡時刻を修正し、「我々は、新型コロナウイルスに対処している最中、不幸なことにそのウイルスに感染した、武漢の李文亮医師の死を深く悲しんでいる。懸命な治療が施されたものの、2月7日午前2時58分に死去した」とツイートした。
中国の保健当局によると、新型ウイルスによって亡くなった患者のほとんどは60歳以上の高齢者で、既往歴があった。李医師の既往歴は分かっていない。
新型ウイルスを早期に警告
昨年12月30日、李医師は同僚にアウトブレイクが起きていると警告した。
それから4日後、中国公安省の職員が李医師を訪ね、書簡に署名するよう求めた。その書簡は、李医師を「社会の秩序を著しく乱す」「虚偽の発言をした」として告発する内容だった。
「我々は厳粛に警告する。かたくなに無礼な振る舞いを続けたり、こうした違法行為を続けるのであれば、あなたは裁かれることになるだろう。わかったか?」
警察が李医師に署名を求めた書簡には、「我々は、あなたが落ち着くこと、そしてそれを行動に反映することを望む」と書かれている
李医師は、警察が「うわさを拡散」したとして捜査を行ったとしている8人のうちの1人。
今年1月末、李医師は中国のソーシャルメディア「微博(ウェイボ)」上で、この時の書簡のコピーを公開し、何があったのかを説明した。
咳、発熱があっても陰性
李医師は、1月10日に咳をし始めて、翌日には発熱があり、2日後には入院することになったと、「微博」に経緯をつづった。李医師の両親も体調を崩し、病院へ搬送されたという。
10日後の1月20日、中国政府は新型ウイルスのアウトブレイクについて、緊急事態を宣言した。
李医師によると、コロナウイルスの検査を複数回受けたが、そのいずれも陰性だったという。
1月30日、李医師は再び「微博」に投稿。「今日の核酸増幅検査で陽性反応が出た。一件落着した。やっと診断が出た」と書いた。
新型ウイルスは深刻な呼吸器感染症を引き起こすもので、通常は発熱や空ぜきといった症状から始まる。感染した多くの人は、通常のインフルエンザのように完治するとみられる。
中国の最新状況
中国は、アウトブレイクを制御するために、さらなる制限措置を講じている。
北京市は5日、誕生日や結婚式など、グループで食事をすることを禁止する通達を出した。杭州市と南昌市は、1日あたりに外出できる家族の人数を制限している。
湖北省では高層の建物のエレベーターの電力を切り、住民が外出しにくくしている。武漢市職員によると、市内では医療用ベッドや機材が不足しているという。
ソーシャルメディアには、武漢市職員が一軒一軒をまわり、住民の体温を測っているといった話が上がっている。
品薄状態のマスクをめぐっては、四川省重慶市が購入したマスクを、雲南省大理市側が取り上げ、市民に配布したとして批判された。
山東省青島市と遼寧省瀋陽市が、医療関係の輸送品をめぐり言い争ったとの報道もある。
中国での当局の厳しい対応には批判が上がっている。国際人権組織のヒューマン・ライツ・ウォッチは、中国は「巨大ハンマーを手にしながら公衆衛生に対処している」と述べた。
一方、香港では、トイレットペーパーを含む日用品などの購入をめぐりパニックが起きているほか、マスクを求めて長い行列ができている。
最新の感染状況
新型ウイルスは25カ国にも拡大しているが、中国大陸以外での死者はわずか2人(香港1人、フィリピン1人)に留まっている。
一部の科学者は、多くの感染者には症状があまり現われず、治療を受けない人がいると指摘。症状がなくても人に感染する恐れがあることから、実際の感染者は中国当局の発表の10倍以上いる可能性があるとしている。
イギリスは6日、国内で3人目の感染を確認した。
日本では、新型ウイルスに感染していた香港の男性が乗船していた大型クルーズ船「ダイアモンド・プリンセス」が横浜に停泊中で、検疫が実施されている。
乗客乗員は船内で少なくとも14日間隔離されることになっている。
7日には、新たに41人の感染が確認された。クルーズ船での感染者数は合わせて61人に上ったとNHKが報じた。
香港では、乗客乗員約3600人が乗ったクルーズ船で、3人の感染が確認された。