ウェルシュ菌 Clostridium Perfringens
一度に大量の食事を調理した給食施設などで発生することから「給食病」の異名もあり、患者数の多い大規模食中毒事件を起こす特徴があります。
病原体について
ウェルシュ菌とはクロストリジウム属に属する嫌気性桿菌です。
河川、下水、海、土壌中など自然界に広く分布しています。ウシ・ブタ・ニワトリ・サカナなどの動物や人の腸の中にも見られることがあります。生の肉や生の野菜などに少数のウェルシュ菌が付いていることがありえます。
また、ウェルシュ菌は、加熱にも強く、100度で1時間以上加熱してもウェルシュ菌の芽胞が生き残る場合があります。ですから、加熱調理後の食物にも、ウェルシュ菌が存在する可能性があります。ウェルシュ菌は、嫌気性菌で酸素が少ない環境を好みます。加熱調理後の食物では、含まれる酸素は少なくなっていて加熱により競争相手の細菌も死滅している可能性があります。
加熱調理後の食物中のそのような環境下では、ウェルシュ菌はどんどん増殖してしまう可能性があります。ウェルシュ菌の発育至適温度は摂氏30~40度とされています。
特徴
人や動物の腸管、土壌、水中など自然界に広く分布し、ボツリヌスと同じ酸素を嫌う嫌気性菌です。
健康な人の便からも検出され、その保菌率は食生活や生活環境によって異なり、また年齢による差も認められ、青壮年よりも高齢者のほうが高い傾向があります(成人0.7%、幼児0.5%)。また、家畜(牛、豚、ニワトリ)などの糞便や魚からも検出されます。食品では、特に食肉(牛、豚、鶏肉など)の汚染が高いようです。
この細菌は熱に強い芽胞を作るため、高温でも死滅せず、生き残ります。
したがって、食品を大釜などで大量に加熱調理すると、他の細菌が死滅してもウェルシュ菌の耐熱性の芽胞は生き残ります。また、食品の中心部は酸素の無い状態になり、嫌気性菌のウェルシュ菌にとって好ましい状態になり、食品の温度が発育に適した温度まで下がると発芽して急速に増殖を始めます。
食品の中で大量に増殖したウェルシュ菌が食べ物とともに胃を通過し、小腸内で増殖して、菌が芽胞型に移行する際にエンテロトキシン(毒素)が産生され、その毒素の作用で下痢などの症状が起きます。
一度に大量の食事を調理した給食施設などで発生することから「給食病」の異名もあり、患者数の多い大規模食中毒事件を起こす特徴があります。
原因となる食品
肉類、魚介類、野菜およびこれらを使用した煮物が最も多いです。
発生原因施設は、他の食中毒と同様に飲食店、仕出し屋、および旅館などであり、提供される複合食品によるものが多いです。
また、学校などの集団給食施設による事例も比較的多くみられ、給食におけるカレー、シチュー、スープ、麺つゆなどのように、食べる日の前日に大量に加熱調理され、大きな器のまま室温で放冷されていた食品に多いです。
「加熱済食品は安心」という考えがウェルシュ菌による食中毒の発生原因となっています。逆に、家庭での発生は他に比べて少ないことが特徴的です。
潜伏期間と主な症状
潜伏期間は約6~18時間で、ほとんどが12時間以内に発症します。
腹痛、下痢が主で、特に下腹部がはることが多く、症状としては軽いほうです。
ウェルシュ菌による食中毒では原因食品の食後6~18時間で症状が出現します。
症状としては、水のような下痢・腹痛・ガスです。吐き気や嘔吐、発熱は少ないです。症状は24時間程度続くことがあります。
小さいこどもや高齢者では症状が強いことがあります。脱水に対して点滴が行われることがありますが、治療なしでも症状は自然に消えるのが通常です。
致死率は0.03%未満と低いです。人から人へと直接に感染することはありません。
ウェルシュ菌は、壊死性腸炎またはピグベル(pigbel)というしばしば致命的な重症の病気を起こすことがあります。ピグベル(pigbel)は、ニューギニアでの壊死性腸炎の呼称です。パプアニューギニアの高地において、長期の低タンパク食の後、ウェルシュ菌に汚染された豚肉のごちそうを食べることによってなる壊死性腸炎です。軽い下痢で済む場合もありますが、腸の感染と壊死を起こし、敗血症となり、亡くなることもあります。
壊死性腸炎またはピグベル(pigbel)は、ニューギニア以外では珍しい病気ですが、アフリカ・中南米・アジアなどでも見られます。壊死性腸炎またはピグベル(pigbel)は、ウェルシュ菌のC型によって起こると考えられています。ウェルシュ菌には毒素型による分類でA型からE型までありますが、通常の食中毒を起こすウェルシュ菌はA型です。A型は傷へも感染し、ガス壊疽を起こします。
なお、ウェルシュ菌のA型による食中毒でも、まれに壊死性腸炎などを起こし致死的になることもあることが知られています。アメリカ合衆国では、2001年と2010年に精神科の入院施設でそのような致死例の発生があったことが報告されています。
2010年5月7日、アメリカ合衆国ルイジアナ州の州立精神病院で、ウェルシュ菌のA型による食中毒で、42人の入院患者と12人のスタッフが、嘔吐・腹痛・下痢などで発病しました。24時間以内に3人の患者が急死しました。この3人の患者の内、2人で壊死性腸炎を認めました。精神病院では、患者は腸の動きを不活発化するような向精神薬の投与を受けていて、そのような状況下では、ウェルシュ菌のA型による食中毒も重症化しやすいようです。なお、食中毒の原因はニワトリ料理で、食事の24時間前に作られましたが適切な冷蔵が行われていませんでした。
注意すること
- 前日調理は避け、加熱調理したものはなるべく早く食べること。
- 一度に大量の食品を加熱調理したときは、本菌の発育しやすい温度を長く保たないように注意すること。
- やむをえず保管するときは、小分けしてから急激に冷却すること。