2020/08/03【新型コロナウイルス:COVID-19】真夏の授業 新型コロナ休校で遅れ取り戻そうと全国各地で
例年は全国各地の学校で夏休みに入っている8月。ことしは、新型コロナウイルスの影響で休校した期間の学習の遅れを取り戻そうと、95%の教育委員会が夏休みを短縮する予定で、各地の現場は異例の真夏の授業を乗り切ろうと対応に追われています。
文部科学省によりますと、新型コロナウイルスの影響で休校の対応を取った1794の教育委員会のうち、ことし6月下旬時点で95%に当たる1710の教育委員会が、学習の遅れを取り戻すために夏休みなどを短縮すると回答しました。
短縮後の夏休みの期間で最も多いのは、小中学校では「16日」で、最も短いところは小中学校では「9日」、高校では「4日」と回答したところもありました。
こうした中、例年は夏休みに入っている8月も多くの学校で授業が続けられていることから、各地の現場は感染対策と熱中症対策を両立するための対応に追われていて、新たに教室にエアコンを設置したり、登校時間を早める「サマータイム」を導入したりする動きが出ています。
また、子どもや学校現場の負担が増す中、通学路沿いの店舗などが熱中症にならないよう見守りに協力したり、地元のバス会社が登下校にバスを出したりと、異例の真夏の授業を地域で支えようという取り組みも始まっています。
熱中症対策で脱ランドセルの小学校
兵庫県たつの市の小学校は、夏休みを短縮して登校する子どもたちを熱中症から守るため、ランドセルではなく軽いリュックサックなどの使用を認める取り組みを始めました。
兵庫県たつの市は、新型コロナウイルスによる授業の遅れを取り戻すため夏休みを、平年より大幅に短い今月8日から16日までの9日間としています。
たつの市はランドセルの国内トップクラスのメーカーが本社を置く「ランドセルの街」として知られていますが、ことしは暑い日の登下校が増えることから熱中症対策としてランドセルではなく、より軽いリュックサックなどの使用を認めることにしました。
このうち、龍野小学校では3日朝、全校児童240人のうち半分ほどがリュックサックを背負って登校しました。
6年生の女子児童は「リュックサックで登校していますが、ランドセルと比べると肩などに熱がこもらないのがいいです」と話していました。
この小学校では、荷物を軽くするためふだんはすべて持ち帰らせている教材を、机の中などに置いて帰ることを認めているということです。
龍野小学校の田中秀幸校長は「個人個人によって暑さの感じ方が違うので、命を守るために選択肢を増やすことにした」と話していました。
感染症・熱中症対策も 苦心の現場
夏休みを例年の半分以下の16日間に短縮した、東京 多摩市の小学校では「学習対策」と「感染症対策」に「熱中症対策」も加わり、対応に追われています。
多摩市の東寺方小学校では、本来はひとコマ45分の授業を35分間と10分短くし、午前中の授業を4コマから5コマに増やすことで学習の遅れを取り戻そうとしています。
このうち5年生の教室では、感染対策のため子どもたちはマスクをつけ、可能なかぎり席を空け、教室の窓も換気のために10センチほど開けていますが、熱中症対策のためエアコンはつけたままにしています。
そして、35分の授業が終わるたびに、教員の呼びかけに応じて、子どもたちは持参した水筒から水分を補給したり、廊下で手を洗ったりしていました。
女子児童の1人は「マスクは息がしづらいので本当に暑いときはつらいです。授業時間が短いと、算数で難しい問題を解くときに時間がなくて大変です」と話していました。
また、教員は「短い授業時間で知識を定着させなければならず、厳しいです。子どもたちも疲れが随所に見られ、体調の変化には気をつけていますが、暑さも刻一刻と変わる中、対策も変えなければならず、大変です」と話していました。
こうした中、学校が最も気を使っているのは体育の授業で、毎時間、教員が校庭に出て熱中症のリスクがないか、「暑さ指数」を測り、職員室のボードに記録して屋外で体育を行える状況か、こまめに確認していました。
さらに、校舎の脇には熱中症のリスクを下げるためことしから水を霧状に吹きつける「ミスト装置」が設置され、休み時間になると子どもたちが次々と集まって、「気持ちいい」などと言いながら順番に涼んでいました。
そして、児童が下校したあとには、すべての教職員が机や手すりの消毒に取りかかり、20分ほどかけて翌日の授業に備えていました。
伊藤智子校長は「この時期まで授業をするのは私の教員人生でも初めての経験ですが、コロナと熱中症対策に加え、学習の保障も子どもたちの人生がかかっているので、どれも手を抜けない。子どもも先生も見えない疲労が重なっていて心配ですが、できないとも言えず、やっていくしかないと思っています」と話していました。
クーラー効いた観光バスが送迎
兵庫県丹波市の小学校では、地元の観光バス会社が子どもたちの送迎を無償で引き受け、熱中症対策に一役買っています。
新型コロナウイルスによる休校の影響で丹波市の小学校の夏休みは、今月8日から23日までと例年より18日短くなっています。
こうした中、地元の3つのバス会社が、暑い中通学する子どもたちを熱中症から守ろうと無償で送迎を行っています。
この観光バス会社では、新型コロナウイルスの影響で例年なら忙しくなる夏になっても仕事はほとんど入らず、空いているバスを子どもたちのために役立てたいと送迎を申し出ました。
3日放課後北小学校では校門の前に2台の観光バスが到着し、子どもたちが次々とクーラーの効いたバスに乗り込みました。
6年生の男子児童は「快適で涼しいです。歩かなくていいし、すぐ着くから楽ちんです。バス会社の人に感謝したいです」と話していました。
協力した大伸観光の北野有作専務は「コロナで仕事も減り気分がへこんでいましたが、子どもたちの『いってきます』『ただいま』という、ことばに元気をもらっています」と話していました。
専門家「現場だけで解決は難しい」
学校現場が異例の真夏の授業への対応に追われている現状について、早稲田大学教職大学院の田中博之教授は「学力向上や学習内容をきちんと理解するという点では、夏休みの短縮は仕方がない一方、先生たちにはアルコール消毒や子どもたちの健康観察など多くの負担がかかっている。不慣れな状況にストレスを抱える子どもたちの対応などもあり、現場だけでこの困難な状況を解決することは難しい」と指摘しています。
そのうえで、「登下校の見守りや水分補給、検温の手伝いなど、保護者や地域の人たちが感染対策を講じたうえでバックアップするような、継続的な取り組みが求められている。またコロナ対応が長期化することを見据え、教員が教育活動に集中できるよう、必要な人員の配置などを整備していくことが自治体や国の責務だ」としています。