2020/05/02【新型コロナウイルス:COVID-19】「事実はさらにひどい」大阪・なみはや病院でコロナ130人感染が起きた理由 /大阪府

130人にのぼる新型コロナウイルスの病院内集団感染が判明した「なみはやリハビリテーション病院」(大阪市生野区)。病院で何が起き、どうして感染がここまで拡大したのか。現役看護師、元病院スタッフたちが、「週刊文春」の取材に、その実態を語った。
「我が家の娘が、今ニュースで騒がれている大阪なみはやリハビリテーションに勤めています。事実は、さらにひどい内容だということをお伝えしたくて、メッセージを送信することを決めました。娘も取材を受けると申しておりましたし、私も医療従事者の家族として声を上げたいです。どうか、お力をお貸しください」
4月24日、こんな投稿が情報提供窓口「文春リークス」に寄せられた。なみはやリハビリテーション病院(以下、なみはや)は、4月14日に看護師1名の感染が発覚すると、現在までに130名を超える集団感染に拡大、80代の入院女性など複数名の死亡が確認されている。
文春リークスに告発を寄せた母の紹介を受け、現役看護師が取材に応じた。
「報道を見ていると、看護師の感染が最初だと報じられています。しかし、それ以前の4月9日頃、患者さんの中に発熱した方がいました。医師の診断は誤嚥性肺炎でしたが、その後重症化し、転院。後で、その患者さんがコロナに罹患していたことがわかりました。当然スタッフの中には濃厚接触者も多くいます」
患者のコロナ感染がわかったのは14日頃だったという。だが、院内で情報が共有されることはなかった。
「別のフロアで働くスタッフから『出たらしいよ』と言われて初めて知りました。その頃には患者さん、スタッフ、看護師の中で発熱していない人の方が少ないくらいにまで発症者が続出していたのです」
病院は、どのような対策を取っていたのか。
「コロナが全国規模で蔓延していた状況でも、感染予防マニュアルや感染者が出た際の対応策などは、まるでありませんでした。看護師の感染発覚後、院内では、2階のスタッフは階段を利用し、3階のスタッフはエレベーターを使用するようにして動線を分けようとしていました。しかし、使用するロッカーは男女それぞれ1カ所ずつのみ。正直これでは意味がないと思います」
濃厚接触者にも「陰性だった人は出勤するように」
なみはやでは、4月20日に、陽性と判定された職員をそのまま勤務させていたことが明るみに出て、問題になった。事前に「症状がない感染職員を働かせるのはどうか」と保健所に確認し「感染拡大防止のため認められない」と注意を受けていたにもかかわらず、病院は「やむにやまれずお願いした」。背景には、深刻な人手不足があった。
「当初、濃厚接触者に対しては『4月26日まで自宅待機』と指示がありました。しかし、人員が足りない状況を受けて、『陰性だった人は出勤するように』と指示が変わりました。夜勤も元々看護師2人体制で回していましたが、時には看護師1人とリハビリスタッフ1人の体制になることもありました。点滴や痰の吸引、血糖測定など、看護師1人ではとても手が回らない。患者さんの人数に対する看護師の割合は法律で定められているのですが、それに違反していると言えます」
こうしたなみはやの過酷な労働環境は、コロナ以前から存在していたと言う。
「『発熱がある』と申告しても、『37度で休むのか』と言われ、中にはロキソニンで解熱して出勤するスタッフもいました」
感染廃棄物の扱いも適切ではなかった
問題は人手不足だけではなかった。院内での廃棄物の取り扱いもその一つだ。
「もともと、感染廃棄物の扱いが適切ではありませんでした。痰の吸引に使ったチューブなど、感染症のリスクがあるものは蓋つきのゴミ箱に分別して感染廃棄物として捨てるのが普通です。ところが、なみはやでは、すべて一緒くたに産業廃棄物として普通のゴミ箱に捨てていました。また、感染症リスクのある患者を、個室隔離やカーテン隔離するのではなく大部屋で対応していました」
こうした現状に対して、声を上げるスタッフもいたが、病院上層部に受け入れられることはなかった。
「『これではいけないのでは』と上司に発言した人も中にはいますが、『他のグループ病院でも同じように行ってる』と返答があるだけでした。こうしたやり方を受け入れられず、病院を去る人も少なくはありませんでした」
1日4,000円の危険手当で「なみはやに行くように」
実は、なみはやは、昨年末まで今里胃腸病院という名前だった。経営難だったこの病院を買い取り、リハビリ病院として生まれ変わらせたのが、医療法人生和会だ。生和会は、経営状態の悪い病院を次々に買い取り、規模を拡大している。生和会の系列病院で働いていた医療スタッフがこう証言する。
「なみはやは、内科だったのがリハビリ専門に変わった上、3月頃に病床数を増やしたこともあって、スタッフの数が足りていたとは言えません。生和会では、買い取った後も元のスタッフも継続して雇用していますが、それでも人手が足りないことがある。その際は系列の他の病院から出向という形でスタッフを異動させて集めるのです。今年8月には奈良に新しくリハビリ病院ができる予定です。なみはやができたばかりの頃も人手が足りておらず、系列の伊丹せいふう病院から、約20人のスタッフが1年間の出向を命じられていました」
最近も、なみはやへの出向が命じられるケースがあるという。別の生和会の元スタッフは、現役職員からこんな悲鳴を聞いた。
「コロナの影響もあり、他県にある系列病院のスタッフに1日あたり4,000円の危険手当で『なみはやに行くように』という指示が出されています。独身だったり、子供がいなかったりする職員を対象に招集をかけていますが、拒否権はほとんどない。『保健所から許可が出ている』と説明を受けていますが、安心して行けるわけがありません。2週間なみはやで勤務した後、2週間の自宅待機を経て、元の病院に戻されるそうです。28日から順次行われていますが、『ある種のパワハラだ』と嘆いていました」
「マスクはしてもしなくても感染確率は変わらないから」
医療機関には必須のマスクも枚数が足らず、驚くべき指示も出されていたという。リハビリスタッフの知人が語る。
「マスクが足りないこともあり、『マスクはしてもしなくても感染確率は変わらないから、しなくていい』と指示を出す管理職もいたと聞きました。実際、なみはやのインスタグラムでは、マスクをしていないスタッフの写真が相次いでアップされていました。感染者が出ると、インスタは鍵をかけて、投稿も削除されました。リハビリルームがスタッフの休憩所にもなっていて、そこで昼食を食べたりしていた。それも感染拡大の一因だとみられています」
「遊んでいて感染した看護師が悪い」と中傷
リハビリのやり方にも、問題があったという。
「カルテを書く時間も算入し、極力長時間リハビリをしているように見せているそうです。また、過度なリハビリを強いる場面もあり、30代の主婦の方に100回のスクワットを課したり、高齢の方に院内を10周散歩させたりしていた。中には無理なリハビリで症状が悪化し、転院する患者さんもいたとこぼしていました」(同前)
前出の現役看護師は、最後に今後の不安をこう吐露した。
「事実とは全く異なるのに、ネット上では『遊んでいて感染した看護師が悪い』と中傷する内容がたくさん書き込まれました。中には、住んでいる場所を正確に書いている投稿もあって怖くなりました。
今後については、復帰後は感染者病棟で働いて欲しいと打診が来ましたが、なみはやでコロナの患者さんの対応がしっかりできるのかは不安です。そもそも、もっと早く濃厚接触者のスタッフが家族や知人と接触することも避けられたはずです。今回の件を受けて退職を検討している人も多い。病院で働いているスタッフのことをどう思っているのか。そして何より、患者さんの安全安心を考えた対応をしていただきたいです」
なみはや病院の見解は
「週刊文春」では、なみはや病院に事実確認の連絡を入れると、次のような返答が得られた。
「只今、事実関係を調査中です。今回の問題につきましては、外部の弁護士を加えた『内部調査委員会』にて協議する予定です」
また同病院を運営する生和会にも事実確認を申し入れたが、期限までに回答は得られなかった。
現在、厳しい環境におかれている医療従事者たち。コロナが最大の原因であることは言うまでもないが、果たしてそれだけなのか。もともと過酷な医療現場だったゆえに、感染拡大を招いたのではないのか。
厚生労働省は、1490億円の交付金を創設して、医師や看護師の派遣などにかかる費用を支援しつつ、最前線でコロナ治療にあたる医師・看護師などの処遇改善のため、重症患者の治療に対する診療報酬倍増を決めている。こうした処遇改善が、現場で働く医師・看護師にきちんと届くよう注視する必要がある。

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