増える「中等症」
芸能界でも新型コロナの人が増えており、入院を余儀なくされているケースが時折報道されます。「芸能人だから優先的に入院できる」「お金をたくさん持っているから高い個室に入れた」などといった辛辣なコメントも見かけます。
大量の酸素投与が必要な重症化しつつある患者さんや、せん妄で大声を上げる患者さんなどのために個室を準備している病院もあります。しかし、コロナ病棟には通常差額ベッドの個室はありませんし、保健所などが医学的に入院を必要とする患者さんを優先的に選択しています。
入院に至る人の多くが中等症であるため、報道されている芸能人のケースも早期に治療介入が必要な「中等症」の状態だったと思われます。たとえ、20~30代であっても、この場合入院適応となることが多いのです。
デルタ型変異ウイルスが感染拡大に影響する中、新型コロナの「中等症」の患者さんが増えています。さて、ここで「中等症」について再考してみましょう。
「中等症」には2つある
「中等症」には、軽症寄りの「中等症I」と、重症寄りの「中等症II」があります。これら2つには決定的な違いがあります。それは、酸素療法が必要かどうかという点です。
厚労省の手引き(1)を要約すると、「中等症I」は「酸素吸入の必要はないが、呼吸困難や肺炎がある新型コロナ」を指します。
保健所が配布しているパルスオキシメーターで酸素飽和度が高くても、胸部レントゲン検査などを受けているわけではないので「肺炎がない」とは断言できません。軽症と診断された患者さんの中には、実は胸部レントゲンを撮影すると肺炎があるような、「”隠れ”中等症I」が含まれています。
実際、酸素飽和度はしっかり確保されているものの、何らかの理由で入院してきた新型コロナの患者さんに胸部レントゲン検査をおこなうと、肺炎が発見されるケースもしばしばあります。
「中等症II」は、「酸素吸入を必要とする肺炎がある新型コロナ」を指します。酸素療法が必要になる病態なので、まさに「重症」の一歩手前であり、コロナ病棟の医療従事者がもっとも警戒する水準です。
酸素療法が必要になるというのは、酸素の補充がなければ肺が適切に酸素を取り込めない状態に陥っているということです。臓器に対するサポートが必要な場合、医学的には「〇〇不全」と呼ばれることがありますが、「中等症II」はれっきとした「呼吸不全」と言えるのです。
海外では重症度分類が違う
これら「中等症I」「中等症II」の区分は、日本独自のものです。海外ではどうかというと、国際的な分類(2,3)では、おおむね日本の「中等症I」が「中等症」、「中等症II」が「重症」に該当します(図2)。あまり知られていませんが、海外では「中等症II」は「重症」と認識されているのです。集中治療室入室や人工呼吸器装着が必要な日本の「重症」は、海外では「重篤」と呼びます。
そのため、海外で新型コロナの治療薬が開発されたときなど、「重症に適応」と書かれていても、日本では「中等症II」で使えたり、ニュースの翻訳で「彼は新型コロナの重症だった」と書かれていても、日本では「中等症II」だというちぐはぐな現象が起こりえます。
療養中の患者さんから、入院適応例を拾い上げることが重要
各自治体の保健所や療養宿泊施設では、保健師、看護師、医師などが療養中の患者さんと連絡をとったり診察したりして、入院が必要かどうか判断します。軽症例はリスク因子がなければ入院の必要はありませんが、肺炎がありそうな「中等症I」の所見や、酸素飽和度が低い呼吸不全の「中等症II」の所見があると基本的には入院が必要です。軽症例の中にそういった患者さんが隠れていないか、丁寧に見つけなければいけません。さらに、基礎疾患や年齢に応じて優先順位をつける必要があります。
神奈川県(4)(図3)、千葉県(5)、埼玉県のように、入院優先度判断スコアを作って効率的に入院適応を絞り込んでいる自治体もあります。ただ、細かいスコアリングに時間がかかって逆に手間になってしまわないよう注意する必要があります。
多忙な業務の中で優先順位をつけていくわけですから、自治体によっては「あの人は入院できたのに、私はなぜ入院できないんだ」という批判が来ることもあるかもしれません。しかし、基本的に入院が必要と考えられる優先順位の高い中等症以上の患者さんから、病院側に入院要請が出されていることは広く知っていただきたいと思います。
https://news.yahoo.co.jp/byline/kuraharayu/20210906-00256669