2020/04/22【新型コロナウイルス:COVID-19】サーフィンで新型コロナウイルスの感染リスクはあるのか?最新の研究を読み解く
外出が厳しく制限されている国や地域でも、散歩、ジョギングや自転車は2メートルのソーシャル・ディスタンスを守って行うことは推奨、もしくは許可しているところが多いようだ。適度な運動は室内で過ごすことのストレス解消や、免疫力を高めるために有効であると考えられているからだ。
新型コロナウイルスの影響が長期化する中で、「安全で必要な運動」の定義に議論が絶えず、サーフィンも例外ではない。世界中でビーチ閉鎖等によりサーフィンが出来ない国や地域が広まり、ついに日本でも全国各地でサーフィンなど娯楽目的の来訪自粛を呼び掛ける動きが広まっている。
そんななか、新型コロナウイルスの感染に関して、サーフィンを含む野外での運動の観点から研究した論文がいくつか発表された。なかには、海で感染拡大するという主張もあれば、それは証拠がないと反論する研究者もいる。新型ウイルスだけに、研究がまだ十分進んでおらず、研究結果や報道内容をそのまま鵜呑みにすることはできないが、世界で報道されている最新の研究内容をいくつか紹介する。
飛沫の飛行距離は2メートルを大幅に超える
現在世界中の新型コロナウイルスの感染拡大防止対策の大きな柱になっているのはソーシャルディスタンス(社会的距離)を保つこと。極力他人との接触を控え、やむを得ず外出をする場合は他人と約2メートルの距離を置くことが感染を予防することの基本だ。
しかし、3月26日にJAMA(The Journal of the American Medical Association:米国医師会によって年に48回刊行される国際的な査読制の医学雑誌)で発表された記事によると、ソーシャルディスタンスを2メートルとする根拠は1930年代の古い研究に基づいており、感染を防ぐには2メートルでは不十分な可能性があることを指摘した。
これまでの研究では、飛沫は粒子径が5μm以上の大きな粒子と、それ以下の小さな粒子に二分されると考えられてきた。病原体を含む大きな粒子は、くしゃみや咳によって飛沫が勢いよく排出され、約2メートル以内の距離で落下する。一方で、飛沫から水分が蒸発した状態の非常に細かい粒子(飛沫核やエアロゾルと呼ばれる)は、長時間空中に残ることができる。
これらの理解に基づいて、世界保健機関(WHO)や疾病対策センター(CDC)をはじめとする機関は、呼吸器疾患の感染経路を分類。各国では厳しい感染予防対策が講じられてきたが、それにも関わらず拡大を食い止めることができていないことから、ソーシャルディスタンスを2メートル保つという対策では、効果的に新型コロナウイルスの感染拡大を防げない可能性があるという。
米MIT(マサチューセッツ工科大学)のLydia Bourouiba博士(流体動力学・感染症やその伝播等が専門)の最新の研究では呼吸や咳・くしゃみで排出されるのは飛沫粒子単体だけではなく、複雑に変化する「ガス雲」。そのガス雲には様々のサイズの粒子が巻き込まれ、より遠くへ運ばれるだけでなく、暖かく、湿度が高いガス雲の中で、粒子が蒸発せずにより長く残ることも考えられる。
状況によっては病原体を含んだ比較的大きな粒子でも7~8メートルの距離を飛び、数分間にわたって空中に残ることが考えられるという。また、水分が蒸発して、残った軽い飛沫核が数時間もの間空中に浮遊することも否定できない。病原体を含む粒子の蒸発の仕組みがきちんと理解されていないものの、新型コロナウイルスの患者を治療している病室の換気システムからウイルスが検出されたことからガス雲による拡大が推測できるという。
“三密”を避けても、野外での風や人の動きにより飛沫はより遠くへ
ベルギーのルーヴァン・カトリック大学とオランダ・アイントホーフェン工科大学の研究チームによる最新の研究では、一般的に言われている2メートルの距離は現実的には全く足りないことがわかる。走っている人が呼吸、くしゃみや咳をした場合、排出された飛沫が後ろに残る後流(スリップストリーム)に残留し、遠く離れた他人に移る可能性があるという。
自転車競技などでエネルギーを節約するために研究が盛んにおこなわれているスリップストリームだが、そのシミュレーションで粒子の移動を見るとスリップストリームが感染拡大の基になりうることがわかった。
「感染力が比較的高い、大きな粒子はすぐに落下するが、それでも後ろを走る人の洋服に付着することがある。細かい粒子はより長く空中に残り、より遠くを飛散する。」
著者の一人 Bert Blocken博士
シミュレーションの結果が図やアニメーションで明らかになっている。
この結果を受けて、科学者は1列で同じ方向を進むことを前提に、徒歩では4~5メートル、ランニングでは10メートル、自転車でスピードを出す場合は20メートル以上離れた方が良いとしている。また、自転車で追い越しなどをするときも、20メートル以上の距離からレーンを変え、真後ろを走ることを避けることを提言している。
この報告はノーベル賞を受賞した山中教授も自身のページでシェアしていて、ジョギングをするときはマスクをすることを推奨する動画もアップしている。
海での感染拡大を懸念する研究者と反論
海外のサーフィン界では、「Scripps Institution of Oceanography (スクリップス海洋研究所:1903年にカリフォルニアのラホヤに設置された世界最大規模にして最古の地球科学と海洋の研究組織) 」の大気科学者Kim Prather教授の発言が話題になった。
「窓からサンディエゴの全てのサーファー、ジョガー、サイクリストに向けて叫びたい。今100万ドルくれると言われても、私は水(海)に入らない」「新型コロナウイルスがカリフォルニアを横断する中、浜辺は最も危険な場所の一つ」
この発言は、彼女の真意とは違うところで良くも悪くも大きな反響を呼び、LA Timesをはじめ多くの報道がこの発言を引用した。一部の海外サーフィンメディアは、この発言がカリフォルニアやそのほかの場所でサーフィン禁止令につながったと指摘している。
一方でこの発言に対する反論も呼んだ。サーフィンを禁止していないハワイでは、州の保健管理官がサーフィンによる感染の拡大を否定。Hawaii News Nowの報道によると海での運動によって新型コロナウイルスが感染するという証拠はなく、専門家の多くはサーフィンも他の運動と同様、他人と距離を置いて行う分には問題はないと主張した。
しかし、Prather氏は後から「お金をくれても海に入らないというコメントは完全に文脈を無視している。」とコメントし、発言の経緯を説明した。
SARS-CoV-2は今のところ海中でも大気中でも確認されたことがないことを明確に伝えたうえで、ウイルスの粒子が下水等で海へ流れ、波がブレイクする衝撃で空気中へと舞い上がって感染が広まる可能性があることを指摘。風に乗って感染がさらに広がることも懸念して注意を呼び掛けている。「このウイルスの感染用量がまだ知られていないので、後で後悔するより安全を選んだ方がいい。」としている。
また、今年新たに設立されたコスタリカのサーフニュースサイトSERFによると、コスタリカにあるHospital Mexico病院の感染症専門家Saúl Quirós Cárdenas氏の見解では、ウイルスは海水でも約6時間生存でき、直接接触がなくても、感染した人の唾液などが海に流れて、近くのサーファーに移ることは十分に考えうる。現実的にはすぐに希釈され、ごく微量になることが予想されるが、移る可能性があるのは否定できないそうだ。
新型だけに、研究がまだ十分進んでおらず、煽情的な報道に注意が必要。
新型コロナウイルスの感染が急激に拡大しているなかで、いち早く注意を呼び掛けるために研究が査読されないまま発表されているものもあるようだ。上記の研究発表もあくまでも飛沫の飛び方だけを見たもので、それぞれの粒子サイズごとにウイルスがどれだけ入っているか、それが空中でどれだけ生き残るか、どれだけ体内に入ったら感染するかなどはっきり分かっていないことがたくさんある。
また豪STAB誌が指摘しているように研究者が意図しない形で報道されることも少なくない。
しかし、政府やWHOの情報を待っていると手遅れになる場合もあるので、自分で確実な情報を入手し、自分で考えて判断することも大切だと思う。しっかりと感染予防対策を取ることでより早く感染拡大を食い止め、みんなが安心して外出できることを願いたい。