2019/04/24【ノロウイルス】くら寿司でノロウイルス食中毒が発生 寿司カバー「鮮度くん」は役立たず?
神奈川県の小田原保健福祉事務所は4月14日、くら寿司の小田原東町店で食中毒が発生したと発表した。
地元紙の神奈川新聞は16日に「小田原の回転ずしチェーン店で食中毒」との記事を掲載した。一部を引用させていただく。
《同事務所によると、7人は7日昼から夜にかけて、同店でコハダやマグロのにぎりずしや茶わん蒸しなどを食べた。3人の便からノロウイルスが検出されたことなどから、同事務所は同店が提供した食事を原因とする食中毒と断定し、14日から営業禁止処分とした》
こうした報道を目にすると、くら寿司のファンの中には「鮮度くん」と命名された寿司カバーが脳裏をよぎった方がいるかもしれない。
同社の公式サイトでも「お口にマスク。回転寿司に寿司カバー。」というキャッチコピーと共に、「自社開発の寿司カバー『鮮度くん』がウイルスやホコリなどから、がっちりお寿司を守ります!」と大々的に宣伝している。
この「鮮度くん」を説明する前に、まずはノロウイルスについて確認をしておこう。慶應義塾大学保健管理センターの公式サイトに「ノロウイルスの予防」という記事が掲載されている。ポイントを箇条書きの形で引用させていただく。
【1】ノロウイルスは水中の生物、特に牡蠣などの貝類に蓄積されている。よって、体内にノロウイルスを蓄積した魚介類を生で食べると感染する。
【2】ノロウイルスに感染した魚介類を扱ったキッチンでは、水や調理器具を媒介として別の食材がウイルスに汚染されるケースがある。魚介類以外の食材にも伝染するため、火が通っていなければ、口にした人は感染してしまう。
【3】ノロウイルス感染者の手指には、排便の際などにノロウイルスが付着する。適切な手洗いを行えば洗い流されるが、不十分だと手指に残る。感染者が触ったところはウイルスが付着し、そこを触った人はウイルスに感染する。食べ物とは無関係に、人から人への感染が成立する。
【4】ノロウイルス感染者が発症して嘔吐または下痢をすると、その吐瀉物が乾燥してもウイルスは生存している。空中に乾燥物が飛散し、口を介して人に感染するという空気感染が成立する。
こうした感染ルートを、くら寿司の「鮮度くん」は遮断できるというのだ。公式サイトには「『鮮度くん』誕生秘話」というマンガが掲載されている。
冒頭で「20年前、回転寿司では寿司カバーをつけて流すことはごく当たり前のことでした》と振り返り、なぜ寿司カバーが衰退したのか読者に問う。
くら寿司側は《カバーの手あか等の汚れがひどい》などを理由とし、「寿司カバーに代わるものの研究・開発」を続けてきたとした。
そして次のコマでは、くら寿司の店舗で食材検査を行うため、保健所の職員が来訪。「食中毒は食材だけが原因ではない。空気中の菌からの飛沫感染が大きく影響する」と説明したことをきっかけとして、くら寿司側は対策を急いだ。
研究、開発を進めていた社員を集めると、様々な意見が飛び交ったそうだ。ある社員が「これまでの研究開発の成果を出す時がきましたね!」と意欲を見せると、別の社員は「ああ、ノロウイルス・インフルエンザや空中に浮遊するホコリ・つばからお寿司を守るべきだ!」と賛意を示す。
こうして、くら寿司が全力を注いで開発したのが「鮮度くん」だという。公式サイトの特設コーナーに記載されている“セールスポイント”を引用させていただく。
《空気中には様々なウイルスが浮遊しています。インフルエンザ・風邪などのウイルスやホコリ・つば等からお寿司を守りたい。そのために開発したのが不思議な寿司カバー「鮮度くん」です》
《お皿の手前を上げるだけで、簡単にお皿がとれる。そこに価値あり。そこに技あり。かつての寿司カバーでは、従業員とお客様の双方が「カバーをかぶせる・取る」際に、カバーに触れる必要があり、手あかのよごれ・様々な菌の付着や密封状態が続くことで起こるカバーを開けた時の臭いの問題がありました。だからこそ強く伝えたい。今までの寿司カバーでは、意味がないということ》
■ノロウイルスの感染ルート
くら寿司側の並々ならぬ熱意と、開発した「鮮度くん」の効果に対する自信が伝わってくる。だが、小田原東町店が提供した寿司などを原因とする食中毒が発生したのは事実だ。どうして今回「鮮度くん」は無力だったのだろうか?
小田原保健福祉事務所に取材を申し込んだが、大前提として、小田原東町店が食中毒の防止に力を入れていたことは、調査でも明らかになっている。厨房は清潔で、細心の注意を払って寿司を提供していた。事務所は「食材の汚染や、お客さん同士の感染も、もちろん調査しました」と説明する。
「例えば、感染された方が皆さん牡蠣を食べていれば、牡蠣が原因になります。ところが小田原東町店の場合、感染された方々が口にされたものは、コハダやマグロのお寿司、茶碗蒸し、ラーメンと様々なものでした。このため特定の食材に原因があるという結論には至っておりません」
更に食中毒に罹患した客にも、店側にも「トイレなどに吐瀉物が残っていなかったか」と質問したが、「見た」という回答はなかった。
「これで吐瀉物からの空気感染も否定されました。またノロウイルスに感染したお客さんが食事をした時間帯が同じだったり、場所が集中していたりすれば、お客さん同士の感染が疑われます。しかし実際は、時間帯も席もばらばらだったのです。原因は現在も調査中ですが、小田原東町店に勤務する従業員の方がノロウイルスに感染しても自覚症状がなかったのでしょう。これを『不顕性感染』と呼びますが、そのために勤務を継続。ノロウイルスが手指などを通じて寿司などを直接に汚染。それをお客さんが食べたことで感染した可能性が高いと考えています」(同・小田原保健福祉事務所)
くら寿司では、握りは寿司ロボットが担当しており、ネタを載せる手作業は手袋の着用を義務づけている。公式サイトから《安心のこだわり6》をご紹介しよう。
《くら寿司自慢のシャリを握るのは、1時間に3,600貫という生産能力を誇る「寿司ロボット」たち。機械による作業ですので、衛生的で均一なシャリが出来上がります。ネタあわせは手袋を着用しての手作業。厨房内で商品に触れる作業は全て専用手袋の着用を義務づけていて、清潔・安全性に細心の注意を払っています》
ここまで対策を講じているのだ。本当にノロウイルスがお寿司に付着したのだろうか?
「今回の調査では、従業員の皆さん全員の検便は行えませんでした。そのため、感染者を個人レベルで特定することはできておりません。ただ一般論として、例えば手洗いを徹底しないと、指などに残っているウイルスが手袋の表面にも付着。その結果、手袋のウイルスが寿司を感染させてしまうことはあり得ます」(同・小田原保健福祉事務所)
週刊新潮WEB取材班は4月18日、くら寿司の代表番号と思われる番号で取材を申し込んだが、最終的には取材拒否だった。