2019/06/26【麻疹ウイルス:はしか】フィリピンで死者300人超。世界で麻疹が流行している根本的理由とは? /フィリピン

国立感染症研究所の発表によれば、2019年の麻疹の感染者数は、6月2週時点で617例と、昨年1年間で282例の倍以上を記録しています。世界では、フィリピンが深刻な状況で、300人以上の死者が出ていると報告されています。なぜいま、麻疹の流行がこれほど拡大しているのでしょうか?メルマガ『ドクター徳田安春の最新健康医学』の著者で現役医師の徳田先生は、フィリピンでの感染拡大は、ワクチン接種率の低下が原因だと指摘。その背景にはフェイク情報があり、日本においても医療不信の要因となっていると注意を呼びかけています。
世界で流行する麻疹
世界各地で近年では記録的な規模の麻疹の流行がみられています。世界全体で、2017年には、前年と比べて麻疹ケースが約30%も増えました。フィリピンでは2017年に約2400人の麻疹患者が発生し、2018年の患者数は1万8000人以上となりました。2019年はさらに拡大しており、300人以上の死者が出ています。そのほとんどが子供たちです。
その原因は予防接種を受ける割合の低下です。フィリピンでの麻疹の予防接種割合は、2014年で88%でしたが、2017年には73%と低下、2018年には55%まで落ち込んだのです。死亡者のうち約80%は未接種児でした。予防接種を受けさせなかったのは、フィリピンの親たちの判断でした。 フィリピンで親が子供に麻疹の予防接種を受けさせない事態が広がったのは、2017年に起きたデング熱ワクチンに対する副作用疑いケースの不確実情報が広がったのが発端でした。ある政治家は、ワクチン推進者を政治的に貶めようとして、効果のあるワクチン全般の有効性をも批判するようになりました。それはフェイク情報でした。しかし、親たちは政治家や一部メディアの発言に影響を受け、麻疹を含む予防接種を控えたのです。結果として、麻疹の大流行が起きてしまったのです。
麻疹の集団免疫低下の理由は?
20世紀までは世界中でよくみられた麻疹。このウイルス感染症が、21世紀になってからほとんど稀にしかみられなくなったのは、麻疹ウイルスに対するワクチン接種のおかげでした。予防医学の歴史でも特筆すべき医療介入といえます。 麻疹の予防接種は2回打ちが標準です。地域全体での麻疹予防接種率について、世界全体で平均してみると、1回接種で85%、2回接種で67%です。ワクチンによる感染症予防では、集団免疫という現象をもたらすためにも、地域全体での接種率を高めることが大切です。集団免疫は、集団の予防接種率はある程度のところまでいくと、流行そのものを減らすことができる現象です。麻疹の集団免疫の獲得閾値は95%以上の接種です。 それほど効果がある麻疹の予防接種がなぜ行われなくなってきたのか。ウクライナのように内戦による社会混乱が原因で予防接種が行われなくなり、麻疹が大流行したケースもあります。2014年に内戦が起こり、続く2018年には、5万人以上もの麻疹感染者が出たのです。
医療不信の拡大とビジネス化
最も大きな要因は医療不信です。個々の医師や医療機関だけでなく、各国政府や国際機関の医療政策に対する信頼の低下です。この医療不信を加速させたのはフェイク情報です。イタリアのポピュリスト政党は反ワクチン主義を提唱し、医療不信を煽っています。最近、WHOは世界の人々での10大健康脅威を発表しましたが、ワクチン未接種の拡大も一つの大きな脅威としてカウントされています。
医療不信は特別な宗教団体からも発せられています。タイで2018年に麻疹死亡者が22人が記録されたのは、南部のイスラム教地域でのワクチン未接種エリア(ポケット地域と呼びます)からでした。アメリカのいくつかの州でみられている流行も、ワクチンを否定する宗教集団から出ています。
医療不信を政治利用するだけでなく、ビジネス利用するグループが世界中に出没しています。ワクチン関連情報を欲しがる人々からのアクセスを稼ぎ、ビタミンC製剤などの商品を売るビジネスモデルを成立させています。このサイトでは、ワクチンを打たなかった子供が病気になったときに行うべきことはビタミンCの点滴注射であると親たちにアドバイスしています。恐ろしいフェイクです。
日本の医療不信を増大させた医師
日本では、近藤誠氏がワクチン有害説を唱えた本を出版して医療不信を深刻化させています。近藤氏は、医師としてのプロフェッショナリズムに欠けた行為を重ねており、道徳的責任は重いと思います。
一方ではまた、反ワクチン主義グループを批判するまた別の「反反ワクチングループ」が出現しています。これらのグループは、陰謀説を唱えており、反ワクチン主義は共産主義や社会主義者がもくろむ陰謀である、としています。 その狙いは、ワクチンの議論を政治利用して、特定の政党の支持を低下させようとするものです。日本の大手出版社が発行する雑誌や新聞の全国紙にもそのような論調の論文や記事をみかけるようになりました。うねりのように押し寄せるフェイクの脅威に対して、科学的エビデンスと道徳的正義を守るために、フェイクを指摘し、ファクトを提供する行動がますます必要であると考えます。

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