各地で流行中のインフルエンザ。「熱が出た後5日、かつ解熱した後2日」が復帰の目安とされるが、ある調査で、社会人の約20%が完治前に、また約3%が休みを取らずに出勤していた-という衝撃の現状が明らかになった。背景にあったのは、罹患(りかん)しても休みを取らせてくれなかったり、出社したら「みんなが迷惑している」と非難を浴びせたりする人々の存在。「インフルエンザ・ハラスメント」と呼ばれる理不尽な行為で、感染時の出勤強要などは明らかに違法だが、今もなお誤った対応をしている職場は少なくないという。
3%は休まず勤務
風邪やインフルエンザへの対応などをテーマに調査したのは養命酒製造(東京)。10月、全国の20~59歳の社会人千人を対象に実施し、昨シーズンは12・2%(およそ8人に1人)がインフルエンザに罹患したと回答した。
調査ではインフルエンザの予防方法のほか、かかったときに言われたいせりふ、看病してほしい芸能人などについても調べたが、中でも注目を集めたのが「罹患と出勤の実態」だ。
インフルエンザにかかった122人に、感染した際の勤務状況について尋ねたところ、22・1%が「完全に治る前に出勤した」と回答。このうちの3・3%は「休まずに出勤した」と答えていた。
また統計上は少数だが、37人がインフルエンザを理由とした嫌がらせを受けたことがあると回答。具体的には、「予防意識の低さを指摘された」(30代女性)や「仮病と疑われた」(40代男性)などが挙げられた。さらには、「みんなが迷惑している」(30代男性)「社内に感染を広めるつもりか」(50代男性)と、きつい言葉を浴びせられたケースもあった。
「我慢している人が多い」
「インフルエンザ・ハラスメント」と称される数々の行為。若者の労働相談などを受け付けるNPO法人「POSSE(ポッセ)」によると、同種の相談は珍しくないという。寄せられた事例を紹介したい。
(1)「インフルで休んだら『責任をもって仕事をやり遂げない人』と上司に告げ口をされた」(デザイン業・50代女性)
(2)「代わりの人が見つからず出勤したが、接客でマスクを使わせてもらえなかった」(カラオケ店アルバイト・20代女性)
(3)「インフルで休んだので有給休暇の取得を希望したが上司に難色を示された」(クリーニング店配送パート・30代男性)
POSSEの今野晴貴代表は「実際に相談までしようという人はわずか。SNSの投稿をみれば、ハラスメントを受けても職場に言えずに我慢している人は多い」と指摘する。職場には休まず出社するのが当然との認識が残る企業も多く、インフル休暇を理由に解雇や賃金カットなどの不利益を被ることがあれば「労働組合や専門の相談窓口にすぐ声を上げてほしい」と求める。
強要で迫る法リスク
そもそも、感染しても休まず出勤させる行為は、働き方改革以前の大問題だ。こうした出勤強要が明らかになった場合、会社側はどんなリスクを背負うのだろうか。
「会社は労働契約法や労働安全衛生法違反に問われる可能性がある」と話すのは、労働問題に詳しいベリーベスト法律事務所の水野奈也弁護士だ。
会社に対し、労働者が安全に働くため環境を整える義務(安全配慮義務)があると定める労働契約法。強制的な出勤は罹患した本人の病状悪化だけでなく、他の従業員の感染を招く危険性がある。労働契約法上の罰則はないが「訴訟で違法性を問われ、損害賠償を請求される可能性がある」。
また労働安全衛生法は、感染力の高い新型インフルや鳥インフルを「就業制限の対象」と明記。これを破って出勤させるなどすれば、同法違反で6月以下の懲役や50万円以下の罰金が科される恐れがある。
これとは別に「体調管理がなっていない」などと執拗(しつよう)に叱責する行為は、パワーハラスメントとして社内処分の対象となる可能性もある。水野弁護士は「事前に就業規則などでインフル時の休み方などのルールを決め、社内での取り扱い方を決めておくことが重要だ」と話している。
https://www.sankei.com/…/news/191224/lif1912240001-n1.html