2021/09/21【新型コロナウイルス:COVID-19】ブレークスルー感染はこうして防げ 英オックスフォード大学がツール開発 /イギリス

英オックスフォード大学など12組織18人の研究チームが新型コロナウイルスワクチンを接種した690万人以上の大人(うち520万人は2回接種済み)を調べたところ、ダウン症や認知症など慢性疾患を持つ人はワクチン接種後もコロナに感染しやすく、死亡率も高いことが分かった。英医師会雑誌ブリティッシュ・メディカル・ジャーナルで発表された。
正確には昨年12月8日から今年6月15日にかけイギリスでワクチン接種を受けた19~100歳の695万2440人(2回接種済みは515万310人)が対象で、死亡は2031例、入院は1929例だった。しかし2回接種から2週間以上後に死亡していたのは81人、入院も71人にとどまり、ワクチン2回接種で死亡、入院は劇的に減ることを改めて裏付けた。
研究チームはこうしたデータをもとに年齢、性別、民族、貧困度、慢性疾患ごとにブレークスルー感染による死亡、入院リスクを算定した。相対的な危険度を示すハザード比で見た死亡率は男性1.89倍、白人を1倍とした場合、インド系1.59倍、パキスタン系2.28倍となり、貧困地域では1.27倍となっていた。高齢になるほど死亡率は上昇していた。
<優先的に追加接種や抗体カクテル療法を>
ダウン症12.7倍、腎移植8.1倍、鎌状赤血球症7.7倍、ケアホーム入所者4.1倍、化学療法4.3倍、HIV(ヒト免疫不全ウイルス)・AIDS(後天性免疫不全症候群)3. 3倍、肝硬変3倍、まれな神経系疾患2.6倍、最近、骨髄移植・固形臓器移植を受けた患者2.5倍、認知症、パーキンソン病各2.2倍となった。
このほか慢性腎臓病、血液がん、てんかん、慢性閉塞性肺疾患、冠動脈疾患、脳卒中、心房細動、心不全、血栓塞栓症、末梢血管疾患、2型糖尿病などが1.2倍から2.0倍の範囲でリスクを高めていた。入院のハザード比でもダウン症2.6倍、腎移植12.8倍、ケアホーム入所者1.7倍と同じような増加傾向が見られた。
白人と比較してインド、パキスタン系のリスクが高くなっていたのはコロナ感染に対する感受性の違いというよりも、普段の行動やライフスタイル、世帯規模、職業に関係しているとみられる。これに対してダウン症患者は、感受性の増加と遺伝的素因を反映している可能性があるという。
慢性疾患を抱えるこうしたハイリスクグループはワクチンを2回接種してもブレークスルー感染して入院、死亡する恐れがあるため、優先してワクチンの3回目(ブースター)接種や抗体カクテル療法を行う必要がある。3回目接種の優先順位や投与量、抗体カクテル療法に関する政策立案に役立てることができる。
追加の治療が必要な人を特定
今回、研究チームが開発したブレークスルー感染リスクアルゴリズムは現在、診察時にコロナ感染に対する患者の脆弱度を見積もるために使用しているNHS(英国民医療サービス)リスク予測ツールの最新版として使用される。オンラインで学術的にも利用できるようにするが、臨床ガイダンスは付けていないという。
英キングス・カレッジ・ロンドンのペニー・ウォード客員教授(薬学)は「ワクチン接種にかかわらず、高齢者、ワクチンの効き目が弱い免疫不全患者、既往症を持つ人がブレークスルー感染をした場合、より重いリスクをもたらすことが今回の研究で分かった」と指摘する。
「追加の治療が必要なグループを特定できる。感染者と接触した場合や実際に感染した場合に抗体カクテル療法による感染予防や早期治療が可能になる。ハイリスクを抱える人は3回目の接種を受けると免疫応答が高まるだろう」
ピーター・イングリッシュ前英医師会(BMA)公衆衛生医学委員会委員長はこう語る。「時間が経過し、より多くのデータが蓄積され、より多くの仮説が検証されることによってツールはさらに改良される。感染者全員に抗ウイルス剤や抗体カクテル療法を施して重症化するのを防ぐことはできないが、このようなツールで追加の治療が必要な人々を特定できる」
接触制限についてもブレークスルー感染によるリスクの度合いに応じて自主的に決めることができるようになるかもしれない。
<コロナ治療薬の確保に2352億円>
すでに退陣が決まっている菅政権は8月27日の閣議で(1)ワクチン関連で8415億円(2)コロナ治療薬の抗体カクテル療法「ロナプリーブ」、抗ウイルス薬「ベクルリー(レムデシビル)」の確保に2352億円など総額1兆4226億円を支出することを決めたため、新型コロナウイルス感染症対策予備費の残額は2兆5654億円となった。
米大統領選の最中にコロナに感染したドナルド・トランプ前大統領の治療にも使われたロナプリーブの効き目は絶大だ。イギリスの臨床試験でもコロナに対する独自の抗体反応がなかった患者に投与すると死亡率が5分の1に減少した。日本政府は30万回分を追加購入する方針を決めた。すでに確保している20万回分と合わせると計50万回分だ。
イギリスの医療予算には限りがあるが、日本では人の命は地球より重い。レムデシビルはお一人様約38万円。抗体カクテル療法ロナプリーブはバイデン現米政権が1回当たり2100ドル(23万円)で製薬会社から調達している。日本にはおそらくプレミア付きで輸出されるはずだ。医療経済を考えるとまずワクチンを展開して入院患者を減らすことが最善策だ。
日本でも始まったが
田村憲久厚生労働相は抗体カクテル療法の自宅での投与について「モデル事業のような形で進める。問題点を抽出し、全国展開を図りたい」と述べた。当初、入院患者に限定して使用していたが、宿泊療養施設や外来診療でも認められ、コロナ病床が逼迫する中、自宅療養者に往診で投与できるようにとの要望が強まっていた。
大阪府は今月17日、大阪市内の自宅療養者1人に全国で初めて往診で抗体カクテル療法を実施した。吉村洋文知事は「自宅療養者をできるだけ早く治療し、重症化したり、自宅で亡くなったりする人を1人でも減らしたい」と話した。これまでは急性のアレルギー症状などがまれに起きるため、入院や外来診療でしか認められていなかった。
抗体カクテル療法は症状が現れてから7~10日以内に投与すれば入院を防ぐ高い効果がある。30分ほどの点滴または4回の注射で投与される。日本では7月に特例承認された。現在、日本の自宅療養者は6万人。発症者に限って投与するとしても50万回分の「弾薬」はいつまで持つのだろう。
<英は冬に最大の山が来ると警戒>
すでに15万7千人以上の死者を出しているイギリスではこの冬、1日の入院患者が最大で7千人に達する山が来ると警戒を強めている。これまでのピークは1日4500人だった。50歳以上、高齢者介護施設の入所者や職員、第一線の医療・社会福祉の従事者を対象に米ファイザー製ワクチンを使って3回目の接種を始め、11月初めまでに終了する計画だ。
抗体カクテル療法はブレークスルー感染のハイリスクグループに優先して使用すべきだと専門家は指摘している。
パンデミックとはウイルスとの「戦争」だ。医療経済が徹底しているイギリスではエビデンスに基づき周到に「戦争計画」が立てられる。1回目と2回目はコーヒー1杯分(1回2.18ポンド=327円)のお値段の英アストラゼネカ(AZ)製ワクチンで免疫し、18ポンド(2700円)から22ポンド(3300円)」に値上がりしたファイザー製を3回目に接種する。
1回目も2回目もAZ製だった筆者も妻も3回目で初めてファイザー製を接種する。異なるワクチンを打つのは免疫の訓練効果を高める狙いもある。
コロナ対策はそれぞれの国によって異なる。経常収支が赤字のイギリスは日本のように債務を増やせない。政府債務が青天井で膨れ上がる日本ではコロナ患者を受け入れる病院向けの補助額は重症病床で約2千万円、高額の抗体カクテル療法やレムデシビルも積極的に使用されている。
発症者全員にトランプ前大統領と同じレベルの治療を施せば一体、何が起きるのか。欧米では今回のパンデミックで感染者だけでなく、入院、重症患者、死者が指数関数的に増える恐怖を味わった。欧米に比べ被害が小さい日本では「対症療法」でコロナ危機をやり過ごすことはできても、膨大な借金が将来世代に残される。果たして、それで良いのだろうか。
https://news.yahoo.co.jp/…/fff5d0460735d91a97fbfe407352…

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