2021/08/05【新型コロナウイルス:COVID-19】8割おじさん「8月に新規感染者5千人超」は誇大な数字か グルメサイトの密告制度の問題も
ワクチン接種が進み、規制を次々に解除した国がある一方、わが国は誇大な感染者増を予想して市井の恐怖を煽っている。専門家はそれが仕事でも、政府が丸呑みにしてどうするのか。我々にできるのは惑わされず、ワクチンを正しく理解し、冷静でいることである。
7月25日までの4連休、緊急事態宣言下にある東京都内の人出は、宣言が出ていなかった去年より大幅に増加した。その中心は若者で、考えてみれば、増えるべくして増えている。
感染拡大の初期から、新型コロナウイルス感染症は、若者にとっては風邪並みかそれ以下だ、という話だった。しかし若者から高齢者に感染すると、重症化するリスクがあり、最悪の場合は死に至るから、感染防止に協力してほしい、と説明されていた。
ここにきて高齢者は守られている。7月25日の都内の新規陽性者数は1763人だが、65歳以上の高齢者は48人と、全体の3%にすぎない。ワクチン接種率に目を向けると東京都は遅れ気味なのだが、それでも65歳以上で1回以上接種した人が82%、2回の接種を終えた人が66%を超えている(7月25日現在)。
ワクチンの恩恵で守るべき人たちが守られるようになった以上、多くの人が行動制限に意味を見出さなくなっても、不思議はない。
いま必要なのは、ワクチン接種の進捗状況と、希望するすべての人が接種を終えるまでの道筋を示すこと。それでもなお行動制限が必要なら、その理由を科学的根拠にもとづいて説明すること。そして、あと何カ月でそういう生活から抜けられそうなのか、ゴールを指し示すこと。要するに、政府や分科会が、以前の発言と辻褄が合うかたちで国民にていねいに説明し、状況の変化に合わせて対策を更新していくことだろう。
ところが、政府や分科会、政府に近い専門家から聞こえてくるのは、このままでは感染者数が激増する、と煽る言葉ばかりである。
たとえば、分科会の尾身茂会長は、「東京の1日の新規感染者数が、8月第1週には過去最多の3千人近くに達する」との見通しを示し、さらには「国民の6割がワクチンを接種しても感染は下火にならず、制限の解除は慎重にすべきだ」という旨を発言した。
また「8割おじさん」こと京都大学の西浦博教授も、厚労省の専門家会合で、東京の新規感染者数は、「前週の同じ曜日に対する増え方が、現状の1・5倍より少ない1・3倍でも、8月7日に1日3千人を超え、21日には5235人に上る」との試算を発表。ちなみに、1・5倍のまま続けば、8月中旬以降、1日1万人前後に達するそうだ。
こうした数字に対して、
「感染者が3千人、5千人になろうが、それで騒ぎすぎるのはおかしいと思います。現在、死者数は非常に少ないのに、いまの政策を続けて、若者や子どもの自殺者が増えてもいいのでしょうか」
と疑義を呈するのは、元厚労省技官の医師で、『ゼロコロナという病』の共著がある木村盛世さんである。
「西浦教授も、尾身会長も、あえて出口を見つけたくないのでしょうか。米国や英国が、規制を緩和する方向に舵を切ったのは、ワクチン接種が進んだからだけでなく、ゼロコロナは無理だと気づいたからです。日本では、リスク層である高齢者の多くがワクチンを打っても、政府の政策が変わらないのは、感染制御だけを重視する分科会の力によるものだと思います」
とはいえ誇大な数字で恐怖を煽るのは、8割おじさんや尾身会長の仕事。問題はそれに翻弄される政府にある。木村さんが続ける。
「私は分科会メンバーを入れ替えるか、それが無理なら菅総理のブレーンとして、第2の分科会を作るべきだと思います。菅総理がこれまでとは違う人たちの意見を取り入れられるようにするためです。たとえば、地域ごとの重症者の管理は災害医療の分野といえる。救急医療の専門家も必要なら、経済学者もいたほうがいい。感染症の専門家は、感染者数が何人です、人流を抑えましょう、しか言いません。それなのに彼らの意見しか汲まないのは、国家を人体にたとえれば、その一部しか診ずに治療方針を決めているようなもの。それでは病気は治りません」
さる政府関係者が言う。
「菅総理は各報道に目を通しておらず、国民がどういった点に不満を抱いているのか、わからないまま。しかし、側近が批判的な声を伝えに行っても、逆に叱責されてしまうので、だれも伝えなくなり、分科会の話ばかり聞いている。そのため、尾身さんが間違っていても、偏っていても、気づきません。批判を受け入れずに政治を進める手法は、危険だと思います」
総理が「専門家」の限界に気づかない以上、やはり総理周辺の専門家を入れ替えるしかなさそうだ。
「文化大革命のよう」
だが、政府や分科会に違和感を抱かざるをえないのは、数字で恐怖を煽る点だけではない。たとえば西村康稔経済再生相が発表したのは、「食べログ」や「ぐるなび」などのグルメサイトを通じた「密告制度」だった。個々の飲食店の感染防止対策の状況を、座席間隔やマスク着用状況、手指消毒、換気などについて利用者に答えてもらい、対策が不十分な店には、都道府県を通じて改善を指導する、という内容だった。
7月中の導入が予定されていたが、批判が大きかったため、運用の見直しが示唆された。さりとて政府は、この制度の導入自体を取り下げたわけではない。東京脳神経センター整形外科・脊椎外科部長の川口浩氏は、
「政府は見直すと言っているとはいえ、発想自体がひどいと思います。金融機関や酒類の卸に圧力をかけた問題よりもタチが悪い」
と批判し、続ける。
「匿名の意見を、政府が政策決定に取り入れるのがおかしい。これでは密告国家です。私は中国の文化大革命を想起してしまいました。一般市民が批判闘争に巻き込まれ、密告し合い、その結果、暴力を受けたり、幽閉されたり、殺されたりした。それと同様のいやな感じがします。だれが匿名で意見するかわからないということは、悪意がある人間のウソもありえ、それを政府が鵜呑みにするとしたらマズい。政府が密告という行為に、鈍感になりすぎていると感じます」
医師でもある東京大学大学院法学政治学研究科の米村滋人教授も言う。
「飲食店のなにが感染リスクで、どこをどう改善すべきなのか、という基準を国が示すのが先決のはず。それをせずに市民に素人判断させ、正確かどうかもわからない陰口めいた声を集め、政府の情報源にしようという政策は、あまりにも不適切です。なぜ政府は、すべきことをこうも行わず、国民の一部に負担を押しつけ続けるのか。一部の自治体も、飲食店の営業を取り締まっていますが、その場合は行政の担当者が実際に店を訪れ、自分の目で見たうえで“ここはこうしてください”と、具体的に指導しています。国もそのようにして、飲食店の感染対策の基準を示すべきなのに、どうしてそれを策定しないまま、自粛を呼びかけることができるのでしょうか」
そもそもを言えば、なぜ飲酒がこうも標的になったのか。米村教授が続ける。
「酒類を出さない飲食店でも、マスクを外して大声で話している人はいる。問題は酒類の提供の有無ではなく、個人の意識や店の換気状況などでしょう。感染にはさまざまな要因が絡んでいるはずなのに、飲酒をやり玉に上げすぎてはいないでしょうか。そもそも飲食店経由の感染は数%にすぎないのに、そこばかり規制して、ほかの感染リスクが高い店舗の規制は手つかずというのは、どういうことでしょうか」
どうしてこうなるのか。
「尾身会長ら分科会のメンバーは疫学の専門家が多い。彼らは全体的な数字で見たときの分析は得意でも、飲食店での感染を減らすにはどうしたらいいか、といった細かい分析には通じていないのだと思います。しかし、本当に大切なのは、細かな分析。そうして得られたデータを基礎に、基準を定めることが必要です」
と、米村教授。本誌(「週刊新潮」)はこれまで、トイレでの感染リスクが高いこと、適切に換気されていれば多人数の飲食でも感染リスクは低い一方、換気が悪いと少人数でもリスクが高いこと、下水を通じて感染源を辿れること、などを報じてきた。ところが分科会は、そうしたところに目を向け、細かく分析する気はないらしい。
分科会の面々にそのようなことを望むのは、ない物ねだりなのだろう。それでも、政府がそんな分科会の言いなりであるのだから、やはり分科会のメンバーを入れ替えるしか手はなさそうである。
https://news.yahoo.co.jp/…/0e53404dd8846aacfae2468e7ceb…