2021/09/25【食品衛生】タマゴの賞味期限は、事実上の「消費期限」?…日本ならではの特殊事情

タマゴの賞味期限は、事実上「消費期限」?

多くの食品が生菌数(一般生菌数)、つまりいろいろな菌をひっくるめた数を指標としているのと比べて、変わり種として挙げられるのが、卵である。卵は「保存がきく食品」に分類されるため、賞味期限が表示されているが、これは事実上、「消費期限」と呼ぶべきものである。なぜなら、卵の賞味期限とは「生でも食べられる」、つまり「安全を保障する期限」として設定されたものだからだ。
サルモネラ菌に汚染された卵によって食中毒が引き起こされた、といったニュースを耳にしたことがあるだろう。卵では、殻などに付着しているサルモネラ菌の増殖が起こるまでの期間をもとに、「生で食べられる期限」が決められている。一般的な菌の数ではなく、特定の菌の増殖パターンから定められている点が、ユニークなところだ。
何より注目すべきは、卵は加熱して食べることも多いにもかかわらず、非加熱、つまり「生」で食べられる期限をもとに賞味期限が決められていることである。
「卵かけご飯」に代表される生卵を食する文化は、日本独特のものとされている。この食習慣を前提とした衛生対策、たとえば鶏のえさの衛生管理やワクチン接種などを確実に進めてきた養鶏業者の努力もあって、日本の卵がサルモネラ菌に汚染されている率は非常に低い。2012年には、汚染率は3万個に1個の割合という調査結果も報告されている。
卵がサルモネラ菌に汚染される経路はおもに二つある。卵がつくられる途中の卵巣あるいは卵管からの経路と、殻に付着したサルモネラ菌が卵の内部に侵入する経路である。ただし、汚染された生卵を食べてしまっても、食中毒を起こすかどうかはサルモネラ菌の数にもより、数個程度で食中毒が起きる可能性はほぼ無視できるとされている。また、加熱すればサルモネラ菌は死滅するため、十分に火を通せば期限を過ぎても食べられる。「生食」を前提とした賞味期限だからである。
しかし、卵を生食しているかぎり、リスクをゼロにすることは難しいだろう。2013年に厚生労働省が発表した食中毒統計を見ると、全体で約2万人の食中毒患者のうち、卵が原因の患者数は123人(死者は0人、下痢などの症状の程度はわからない)で、そのほとんどがサルモネラ菌によるものと考えられる。
このリスクを小さくしようとすれば、当然、品質管理のためのコストが大きくなり、業者の経営を圧迫する。日本養鶏協会は2013年6月3日付の全国主要紙朝刊に、意見広告を掲載した。世界でも珍しい「卵の生食」は品質管理が優れているからこそ可能であること、そのためのコストによって多くの鶏卵業者が経営危機に陥りかねないことについて、国民に理解を求めたのである。独特の食文化を私たちが享受するためには、相応のリスクもついてまわることは知っておくべきだろう。

では、卵の賞味期限の決まり方を見ていこう。

前述したように、期限を決めるもとになったのは、サルモネラ菌が増殖を起こすまでの日数である。サルモネラ菌の増殖パターンを見ると、ある期間まではほとんど増えず、そのあと急速に増殖を始めることがわかる。これは、卵黄の膜が時間とともに弱くなることと関係がある。卵白の栄養だけではサルモネラ菌の増殖には限界があるが、産卵から時間がたって卵黄の膜が破れ、卵黄の成分が卵白に移動すると、その栄養を得て菌が急速に増えることがわかっている。
したがって、急速な増殖が始まる日(図中のD)より前に卵を食べてしまえば、食中毒のリスクは管理できる。Dのタイミングは卵の保存温度と関係があり、経験的に、次の式により求められるとされる。
D=86.939-4.109×T+0.048×T×T
D:菌の急速な増殖が起こるまでの時間(日)
T:保存温度(℃)

これよりDの値は、次のように求められる。

夏期 (7~9月・気温27℃) :11日 
春秋期(4~6月/10~11月・気温22℃):21日
冬期 (12~3月・気温9℃):54日
この値に、家庭の冷蔵庫で1週間保存することを考慮して(十分に温度が低いので菌の増殖は抑えられると仮定)、6~7日を足した日数を、日本養鶏協会は卵の標準的な賞味期限として提示している。ただし、実際に市販されている卵の賞味期限は、これとは異なる場合がある。流通のなかで低温保存を徹底させてDの値を伸ばす工夫がなされていたり、逆に安全係数を考えて短く設定されていたりする場合である。

生野菜サラダの消費期限

卵の例を別とすれば、賞味期限は通常、品質の劣化が比較的遅い食品に表示される。十分な加熱の工程を経た食品では、腐敗の目安となる微生物学的試験の結果が効いてくることはほとんどなく、多くの場合、「まだ食べられるけど何かが違う」ことを数字に置き換える官能検査の結果を用いて、賞味期限が設定される。
ところが、加熱されていない「生」の食品であるにもかかわらず、賞味期限のような設定のしかたで消費期限が表示されている食品がある。いわば卵とは逆に「おいしく食べられる期限」が消費期限とされているのである。その一例が、生野菜サラダである。
通常、「生もの」については前述したように、生菌数の上限値が決まっている。東京都の場合はさらに、大腸菌および黄色ブドウ球菌が検出されないことという暫定指導基準まで示されている。生野菜サラダも当然、生菌数の上限値をもとにして「消費期限」が決められていると思いきや、そうではなかったのである。
図は、ある生野菜サラダに保存検査を実施したときの、微生物学的試験の結果である。この食品の特徴は「シャキシャキ」した食感を売り物にしている点にあった。
生野菜は加工工程で消毒液による洗浄が欠かせない。この生野菜サラダも次亜塩素酸で洗浄され、これにより生菌数は1g当たり100個以下という低いレベルに抑えられている。試験の結果、72時間が経過しても、一般生菌数、大腸菌群、黄色ブドウ球菌はいずれも上限値を下回った。
そこで試験は打ち切られ、安全係数を0.7とみなして、
72(時間)×0.7=50.4(時間)
という計算から「製造後50時間」という数値が求められた。通常であればこれが、この食品の「消費期限」として表示されるはずである。ところが、そうはならなかったのである。

「シャキシャキ感」は消費期限か賞味期限か

この生野菜サラダの保存検査で実施された官能検査では、食品の付加価値となっている「シャキシャキ感」が重視された。10名のパネラーが、製造後72時間までの間で、5点満点で食感を評価したのである。
その結果が次の表である。「シャキシャキ感」について、4.0点の評価で「良好」と判定されたのは、36時間後が最後であった。前述した微生物学的試験で得られた数値は50時間だったから、「生もの」の消費期限の考え方にしたがえば50時間のほうを採用するのが当然に思える。
ところが、この生野菜サラダでは「36時間」が消費期限として表示された。「安全」よりも「食感」が理由となって、より厳しい期限が設定されたのである。この期限は消費期限というよりは、実質的には「賞味期限」というべきだろう。
このように消費者の嗜好に合わせるために、健康影響へのリスクはないにもかかわらず、期限が短くなってしまうということがある。私たちの食に対する要求が高度になっていくことが、食品の寿命を縮めているという側面があるのだ。
https://news.yahoo.co.jp/…/0f3b483a1142378cc03a247865c7…

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