2020/05/26【新型コロナウイルス:COVID-19】新型コロナウイルスが、ペットの猫から家族に感染する可能性は?

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の報道が日夜くり返されるなかで、「人から人へ」の感染予防には、余念のないところだが、果たして身近な動物への影響は考えなくても良いのだろうか。
実は欧米では、猫や動物園のネコ科の動物などで、自然感染の事例が数件確認されている。これらの事例を受け、新型コロナウイルスに感染しやすい(感受性がある)動物種を調べる研究が行われた結果、猫とフェレットに高い感受性があることがわかった。
さらに東京大学らの研究チームは、猫を対象に、人由来の新型コロナウイルスを粘膜に接種する実験を行った。この結果、猫は新型コロナウイルスに感染し、感染したウイルスは呼吸器で増殖、さらに接触した他の猫へも伝播し、感染が拡大したと考えられるデータが得られた。しかも、猫同士の間の感染伝播は容易に起こるが、症状を示さない個体が多い可能性があるという。
2017年の調査(一般社団法人 ペットフード協会による)では、猫の推計飼育頭数が、調査開始以来はじめて犬を上回った。それだけに、猫と人との共通感染症にCOVID-19が加わる可能性が高いことは残念に思われる。
これらの研究結果は、報道でも取り上げられたが、ペットの猫から飼い主である自身に感染が及ぶ可能性があるのではと、不安を抱いた方も多いのではないかと思う。ただし、これらの情報は冷静に受け取る必要があることも強調しておきたい。

人から猫への感染に注意

幸いなことに、新型コロナウイルスが「猫から人」へ感染したという事例は、世界においても報告されていない。「人から人」への感染がこれほど拡大した一方で、「猫から人」への感染例がない点から、過剰に不安を募らせる必要はないと言えそうだ。
現在のところ、COVID-19の感染サイクルの主体はあくまで人であり、そのなかで人が猫へ感染を広げる可能性は十分あり得る。憂慮すべきはまず人を発端に猫へ、そして猫から猫への感染拡大の構図だと考えるべきだろう。現に、冒頭で紹介した欧米における猫の感染事例には、飼い主がCOVID-19に罹患していたケースも含まれている。
今後こうした感染の拡大から「猫から人」への感染が生じる可能性も否定はできない。それを防ぐためにもまずは、猫の間に感染を広げないこと、そして猫が、COVID-19の持続的な人への感染源にならないようにするために、人が果たす役割が重要となる。
猫と暮らす家庭は、今回の研究結果に過度の不安を抱くのではなく、飼養の基本に立ち返り、その方法を見直す機会として捉えることをお勧めしたい。つまり、屋内飼育の徹底、動物との適度な距離を保つこと、飼い主のいない猫を増やさないことだ。
家庭内の猫に対しては、前述の通り、人が感染を持ち込まないことが重要になるだろう。感染が分かった場合は、他の家族とともに、ペットへの感染防止を念頭に入れることが示唆される。
そのうえで、猫同士の感染拡大の防止には、「飼い猫は外へ出さない」という、飼養における基本が生きてくる。
そもそも屋内飼育は、猫同士の喧嘩をきっかけに、血液や唾液などを介して感染する「猫エイズ」や「猫白血病」などといった感染症を予防するためのものでもある。これらは、猫特有の感染症であるため、ペットを守る目的が第一だが、COVID-19以前に、猫と人との人獣共通感染症があることも知られているため、衛生的かつ一定の環境下で飼養する意義は大きい。あらゆる感染症への対策として、屋内と屋外の行き来を防ぐことは有効だ。
また、過度なスキンシップを避けるなど、「適度な距離感」を保つことはペットとの間でも大切な感覚だが、屋外で暮らす猫に接する際も重要だ。屋内外での感染拡大を防ぐ意味で、人と猫、双方を守る手段になるだろう。飼い主のいない猫を増やさないことも、感染症の有無や経緯が分からない個体を増やさないことに直結する。
新型コロナウイルスについては、まだはっきり分からないことも多いため、今後の研究成果も注視していきたいところだ。
最後に、国内の歴史を振り返ってみると、ウイルスによる人獣共通感染症が社会のしくみを動かした最も大きな事例は、「狂犬病」ではないかと思う。現在も法律で犬の予防接種が義務化され続けており、野犬は捕獲する必要がある。狂犬病の発生が見られた当時、感染様式や感染した場合の致死率の高さなどを鑑み、重点的に対策が取られたことが理解できる。
その結果、国外の発生地域で感染し、国内で発症したとみられる人の数件の事例以外、日本では1958年以来、狂犬病の発生は認められていない(狂犬病は、主に咬み傷から感染が起るため、犬などから人へ感染する場合に比べ、人から人への感染は非常に起こりづらい)。
それに対して猫は、狂犬病のように、人への危険性が高い感染症の発生や流行がこれまで見当たらなかった。そのため、狂犬病に対するような対策が求められることはなく、地域猫といった存在にも寛容でいることができる。これからもそうあることを願う一方で、それが無責任な飼養を許すものであってはならない。
人獣共通感染症の感染源として、猫を悪者にしないためにも、この報告から見直すべき点は、やはり飼養の基本の「き」に立ち還るものではないだろうか。

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