2021/11/12【新型コロナウイルス:COVID-19】コロナ感染 “第6波” 来る?いつ?対策は? 専門家分析まとめ
NHKが各地の自治体で発表された新型コロナウイルスの感染者数を元に、1週間平均での新規感染者数の傾向について前の週と比較してまとめところ、全国の感染者数はことしに入って最も少ない水準が続いています。一方、東京都などではやや増加するなど下げ止まる傾向が見られています。
政府は12日、新型コロナウイルスの第6波に備え、対策の全体像を決定しました。
「第6波は来るのか?」「来るとすればいつなのか?」
5人の専門家に取材しました。
■数理モデルが専門(厚労省 クラスター対策班参与 古瀬医師)
「第6波は、この冬にも来る可能性が高いのではないか」と話すのは、数理モデルを使った感染症疫学の専門家で厚生労働省のクラスター対策班参与を務める、医師の古瀬祐気さんです。
古瀬さんは、これまで新型コロナに関する厚生労働省の専門家会合などで、感染状況のシミュレーションを担当してきました。
古瀬さんが行っているのは、ワクチンの接種率や人々の行動など、新型コロナの感染拡大に関するさまざまな要因を数式に変換し、今後の感染状況をシミュレーションすることです。
計算に使った主な想定は次のとおりです。
▽ワクチン接種率60代以上で90%、40代・50代で80%、20代・30代でも75%
▽ワクチンの効果は2回接種で感染予防70%と想定
▽人と人との接触は、新型コロナ前の80%(つまり20%低下)
その結果、当初は少なかった感染者数は1か月後には増え始め、2か月後には急増する計算となりました。
■人との接触減らせば第6波の時期の先送りも
古瀬さんによりますと、人との接触を減らしていくことで、第6波が来る時期は先送りされます。
しかし、シュミレーションでは、人との接触を60%に抑えた(つまり40%低下)としても5か月ほどで流行の波が来るという結果でした。
このシミュレーションには、3回目のワクチン接種は想定に含まれていないということで、今後、3回目の接種が進めば、第6波の影響は小さくなるということです。
現在の人と人との接触がどのレベルかを正確に把握するのは難しいのですが、古瀬さんは年末年始に向けて注意が必要だと指摘しています。
「冬場は、過去の経験からも、呼吸器の感染症が広がりやすいことが知られている。そのうえ、年末年始に向けて新型コロナ前の感覚で忘年会を開催したり、人の移動が活発になったりすると感染が再び拡大する可能性がある。一方で今、少しずつ行動が緩んできていると心配する声もあるが、多くの人がマスクを着用して、飲み会も少なくして、会議もオンラインで行うなど、生活がかなり『ニューノーマル』に近づいていて接触機会を減らすことができている。この状態が続けば、第6波自体は避けることができなくても、規模を小さくして、医療のひっ迫も避けられる社会を目指すことができるかもしれない」
■AIでシミュレーション(名古屋工業大 平田教授)
AI=人工知能を使って今後の感染を予測しようという試みもあります。
名古屋工業大学の平田晃正教授はAIにこれまでの感染データを学習させて、今後の東京都の状況をシミュレーションしました。
AIが学習するデータは、これまでの感染者数の推移や、気温、湿度、人流、緊急事態宣言が出されていたかどうかなど多岐にわたりました。
人流は徐々に戻っていくと想定しました。
そして、ワクチンの接種率や3回目の接種をいつ始めるかなど条件を変えた27パターンのシミュレーションをAIに行わせました。
「AIが予測した第6波の流行の山は、どうしても来年1月初旬に出てしまう。ウイルスの潜伏期間を考えると、クリスマスから年末年始にかけて、どれだけ人々が遊びに出て、家族や親族での集まりでいかに広がるかにかかっている」
どのパターンで計算しても、1月初旬にかけて第6波が始まるという結果となったのです。
ただ、ワクチンの3回目の接種が進んだ場合は、感染者数は比較的早い段階で減少傾向に転じ、重症者数も少なく抑えられるという結果になりました。
「大切なことは、3回目の接種を行うなど、人口全体でワクチンの有効率を高い水準で保ち続けることだ。日本ではワクチン接種が急速に進んだので、ワクチンの効果の低下も急速に訪れる可能性がある。そろそろ3回目の接種を始めなければ、有効率を保ち続けることが難しくなるのではないか」
■感染症など公衆衛生が専門(国際医療福祉大 和田教授)
厚生労働省の専門家会合のメンバーで、感染症などの公衆衛生が専門の国際医療福祉大学和田耕治教授も年末年始で人流が増える時期に注意が必要だと警鐘を鳴らしています。
「寒さや湿度などの季節性の要因、人の動きとの関連をみると、インフルエンザでも同じだが、忘年会、新年会などで動きが活発になる年末年始のシーズンが一番感染が広がりやすく注意が必要だ」と指摘しました。
そのうえで、第6波がどのようなものになるのかについては、ワクチン接種が進んだことで社会活動の制限がどれくらい緩和されるのかや、時間がたってワクチンの効果がどのように下がっていくのかなど、まだ詳しく分かっていない部分も多く、専門家でも判断は難しいということです。
ただ、和田さんは、第6波はこれまでの流行とは異なったものになる可能性を指摘しています。
「例えばワクチン接種が先行したイギリスではワクチンを打った人の中でも、30代から50代を中心に多くの感染者がでてしまっている。ただ、ワクチンを打った人が重症化するケースはかなり減ってきていて、重症を予防する効果は比較的続いているとみられる。また、ワクチン接種者の割合が少ない10代以下の年代では感染者が増えるだろうが、この世代はもともと重症化しにくく、重症化の割合はかなり少ないはずだ。」
そして、和田教授は、「各国のケースをみると今後、感染が広がって重症化するのは、ワクチンを接種していない人が中心になるのは間違いない。いま東京都では、例えば40代の人は5人に1人がワクチンを接種していないという状況だ。この冬、個人も地域も安心して過ごすためにも、さらに接種を進めていくことが重要になると思う」と指摘しました。
■感染症対策の専門家(沖縄県立中部病院 高山医師)
感染症対策の専門家として、厚生労働省の専門家会合にも参加している、沖縄県立中部病院の高山義浩医師は、大都市圏と地方の感染の広がりの違いに注目しています。
「おそらく大都市圏と地方では考え方が変わってくる。都市部では感染がずっと続いてくすぶっているようなスポットがあり、そこで人と人の接触が活発になると導火線に火がつくように感染が燃え上がってしまう可能性がある。一方、地方では沖縄も含めて流行そのものが下火になり場所によっては感染者が確認されないところもでてきている。そうした場所で重要となってくるのは都市部からの感染の流入だ。ほかの地域から来る人に対して『ワクチン・検査パッケージ』のような仕組みができているか、また一定規模の流行が起きたときに、来県を控えてもらうよう呼びかけができるかどうかなどが非常に大切になってくる。地方では危機感があるので熱心に呼びかけようとするが、このメッセージは大都市圏で積極的に発信してもらわないと意味が無い。感染者数が減り、注意喚起がなかなか届きにくくなっているが、都市部でもしっかり呼びかけてほしい」そのうえで高山医師は、感染の再拡大に警戒すべき時期について、次のように指摘しました。
■正月以降の感染拡大に警戒しながら対策をとるべき
「対策をしっかり行っても、ある程度は感染が地方に持ち込まれてしまうと考えられるのが年末年始の期間だ。特にずっとお孫さんに会うことができなかったお年寄りは地方にたくさんいてこのお正月は一緒に家族で過ごしたいと考えている人も少なくないだろう。なんとか一緒に過ごしてもらえるようワクチンを打っていることを互いに確認するなど対策をとることが重要だ。都市部では、どうしても12月に忘年会などで感染者が増え、その後、年末年始で地方に広がってしまうので、正月以降の感染拡大に警戒しながら対策をとるべきだ」そして、まさに今こそ第6波対策を進める必要があるとしています。
「欧米の状況を見ると、日本でもこの冬に今回の第5波をしのぐ規模で流行が起きると考えて備えを進めるべきだ。ワクチンの効果が時間の経過で下がると、この夏よりも、入院して退院できない高齢者が増えてくる可能性もある。病床を増やすのは特に地方では限界があり、ただでさえ通常の病気が多くなる冬の時期では非常に難しい。回復期のコロナの患者を受け入れる施設を増やし、入院期間を短縮することが非常に重要だ。仮に入院期間を半分にできれば、それは病床を2倍にしたのと同じ効果がある。感染が落ち着いているこの時期に行政と各病院の院長などで話し合い、準備をしてもらわないといけない」
■“ミニ東京”で試算(東京財団政策研究所 千葉 博士研究員)
取材した専門家は、いずれもこの冬の間に、第6波が来る可能性を指摘していました。
では、第6波にどう対応すればいいのでしょうか。
東京財団政策研究所の博士研究員、千葉安佐子さんもこの冬の感染再拡大を懸念する一人です。
「第6波は、ワクチンの効果減退と人出の増加が重なったときに起きてくると考えている」千葉さんは、第6波をなるべく小さく抑えるにはどうすればいいのか、「ミニ東京」を使ったシミュレーションで解き明かそうとしています。
国勢調査などのデータをもとに、住民の年齢構成や職業、家族構成などが実際の東京都とよく似た人口7万人余りのいわば「ミニ東京」を想定して、感染拡大のシミュレーションを行いました。
シミュレーションでは、1日の新規感染者数は「ミニ東京」で4人と想定しました。
実際の東京に当てはめると800人規模となります。
時期はことし10月以降を想定しています。
その結果、人出がコロナ以前と比べ3割少ない状態が続いた場合、ワクチンの効果が下がってきても感染者数は横ばいになるという計算でした。
さらにワクチンの3回目の接種が進んだ場合は感染者数は減少傾向となるとみられます。
※グラフ中の「減衰」=ワクチン効果の減衰
次に、人出の減少幅を2割にした場合は、ワクチンの3回目の接種を進めたと想定しても、感染者数は増加傾向になるという結果でした。
「少し人出が増えただけでも、感染状況はまったく異なってくる可能性が見えてきた。今後、世の中全体が忘年会を開催するような雰囲気になってくると、全体的に感染が増加する可能性がある。ただ、経済のことを考えると一律に人出を減らした状態を続けるのは難しいのではないか」
そこで千葉さんが注目するのは、ワクチン接種済みであることや検査での陰性を証明することで行動制限が緩和される「ワクチン・検査パッケージ」などをうまく活用することです。
千葉さんのシミュレーションでは、ワクチンを接種した人などの人出がコロナ前の水準に戻っても、それ以外の人の人出が50%減の水準であれば、感染者数は減少傾向になるという計算になったということです。
「人口全体を対象にトータルに、一様に人流を抑制することでも効果が出るのは確かだが経済との両立を考えたときには、ワクチンを接種していないなど感染リスクの高い人の行動を抑えることが効果も大きい。ワクチン・検査パッケージのような政策はどのような形が効果的なのか、議論を進めるべきだ」
■「この冬 第6波が来る」予想を当たらないようにするには
今回の取材では、多くの専門家が、「人と人との接触」が増えるかどうかが第6波が来るのか、いつ来るのかを予測する大きなカギになると話していました。
また、新型コロナ対策に当たる政府の分科会の尾身茂会長や厚生労働省の専門家会合の脇田隆字座長も、記者会見などで、感染者数が減っても引き続きマスク着用や密になる場を作らない「ゼロ密」の徹底などの基本的な感染対策を続けるよう呼びかけたうえで、年末年始に向けて人と人との接触が増えることに警戒を呼びかけています。
今回取材した国際医療福祉大学の和田耕治教授が話していたように、感染が広がるかどうかはさまざまな要因が複雑に影響し合うため、予想は簡単ではありません。
それでもワクチンの接種や新たな治療薬の開発など、希望の光となる要因も出てきています。
「この冬に第6波が来る」という予想が、なるべく当たらないように、第5波までの経験を生かしながら、引き続きさまざまな対策を取っていくことが重要です。
https://www3.nhk.or.jp/…/20211112/k10013344991000.html