2021/11/28【新型コロナウイルス:COVID-19】新型コロナの治療薬、今どうなってる? 新しい飲み薬が年内にも国内で実用化へ

世界的に大流行した新型コロナウイルスに対してはワクチンだけでなく、治療薬も開発が進んでいる。深刻な感染拡大となった第5波の医療現場では新しく導入された抗体医薬が使われた。最近、日本政府と米製薬会社は、開発した飲み薬の国内への供給について合意したと発表し、年内にも治療に使える薬が増えそうだ。ワクチンと治療薬の「二つの武器」がそろえば、この感染症を“特別扱い”しなくてもいい日が近づくかもしれない。

▽時間がかかる新薬開発

新型コロナを発症しても大半は自然に治っていく。ただ一部の感染者は重症化して死亡する。後遺症と呼ばれている症状が残ることもある。
発生が報告されてから世界中で最適な治療法が模索されてきた。新薬の開発には時間がかかるため、当初は別の病気の治療に使う既存の薬が選ばれた。そうした薬剤の中には後に有効性が示されず、「使用すべきでない」と周知されたものもあるので注意が必要だ。
治療については厚生労働省が「新型コロナウイルス感染症 診療の手引き」をまとめている。11月2日に公開された第6・0版で国内での使用が認められている薬として紹介されているのは5剤。新型コロナウイルス感染症に対して承認されたレムデシビル(商品名ベクルリー)、バリシチニブ(オルミエント)、カシリビマブ/イムデビマブ(ロナプリーブ)、ソトロビマブ(ゼビュディ)、重症感染症への適応があるデキサメタゾンだ。
大きく抗体医薬、抗ウイルス薬、抗炎症薬の三つに分けられ、病状の進行の度合いに合わせて使われる。

▽抗体医薬の「カクテル療法」

軽症から使えるのは、抗体医薬のソトロビマブ、カシリビマブ/イムデビマブ。人の体にウイルスなどの病原体が侵入すると、対抗するために体内に抗体が作られる。ウイルスの特徴を基に人工的に抗体を用意して薬にしたのが抗体医薬で、米国ではトランプ前大統領が新型コロナに感染した際に使われたとされる。日本では今年になってから使用が承認された。
ロナプリーブはカシリビマブとイムデビマブの2種類の抗体を混ぜたもので、これを使用した治療は「カクテル療法」と呼ばれる。原則、重症化リスクの高い患者に使用することになっている。また濃厚接触者などの発症予防のための投与についても承認された。
中等症から使えるのが抗ウイルス薬のレムデシビルだ。昨年の5月に特例承認された。もともとエボラウイルス感染症の治療薬候補として開発されていたが、実用化されず、新型コロナで改めて評価された。早期の投与が大切とされ、重症化が進んでしまうと効果が期待できない可能性が高い。
肺などの炎症反応を抑える目的でステロイド系抗炎症薬のデキサメタゾンや、免疫の働きを調整する関節リウマチ治療薬のバリシチニブが使われる。バリシチニブはおなかの中の赤ちゃんに影響が出る恐れがあり、妊婦には使えない。
また重症化した患者に血栓が見つかっていることから、血液の異常な凝固を防ぐ抗凝固薬ヘパリンもよく用いられる。他にも承認はされてはいないがイベルメクチン(ストロメクトール)やファビピラビル(アビガン)などが治療に使われた。臨床試験(治験)も行われており、厚生労働省はこれらの薬は有効性や安全性が確立していないので「臨床試験に登録の上で使用されるべきである」としている。

▽新たなタイプの飲み薬登場

抗ウイルス薬でこれまで使用が認められたのは点滴で投与するタイプだが、飲み薬の開発も進んでいる。国内での実用化が近そうなものをいくつか紹介する。
まずは米製薬大手メルクなどが開発したカプセル薬のモルヌピラビル(ラゲブリオ)。体内でウイルスが増えるのを防ぐ働きがあると考えられている。英国で11月4日に世界で初めて承認された。治験では偽薬を投与したグループと比べて入院や死亡のリスクを30%減少させたとの結果が26日報告された。政府とメルクの日本法人のMSDは160万人分の量の供給について合意した。一部は年内の承認を見込んで比較的早く供給される予定。ただ英国では妊婦への使用は非推奨となっている。
ワクチンで知られる米ファイザーが開発中の抗ウイルス薬PF―07321332(パクスロビド)は重症化とそれに続く死亡を89%抑えるといった高い効果が報告され話題になった。効き目を長くする働きが期待される既存の抗HIV薬のリトナビルを一緒に服用するとの情報がある。発症から3日以内に投与すると偽薬のグループと比べて89%減。発症から5日以内の投与でも高い効果があったという。
日本の塩野義製薬も北海道大との共同研究で生まれた開発中のS―217622の治験を始めている。これも新型コロナの増殖を抑制する効果があるとされる。海外でも治験を進める方針。飲み薬ではないが英アストラゼネカもAZD7442という新たな抗体医薬の治験をしている。

▽ゲームチェンジャー

新型コロナでは新しい飲み薬が出てきてもインフルエンザのタミフルのような使われ方ではなく、ロナプリーブなどの抗体医薬のように、使う対象はリスクが高い患者などに限定される可能性が高い。そうなると、コロナの感染状況を一変させる“ゲームチェンジャー”と言えるまでの存在にはならないかもしれない。
ただ全く影響がないわけではないだろう。コロナの治療に詳しい大阪大の忽那賢志教授は「経口抗ウイルス薬が登場すれば治療へのアクセスが大幅に向上することが期待される。重症者を減らすことができるのではないか」と話す。これまではコロナに感染した患者には特別な医療提供体制が敷かれてきた。ワクチンの接種率が高くなって重症化する人が減っていき、飲み薬でさらに重症患者の増加を抑えられると医療が逼迫しにくくなる。
大阪府済生会中津病院感染管理室の安井良則室長(感染症疫学)は「抗ウイルスの内服薬が導入され、適応が広がっていけば、クリニック等で診断されてすぐに治療が開始されることも可能となり、重症化する人を減らすことにつながっていくと思われる」と語る。
その一方で「インフルエンザのように外来での治療が主流になるべきだと思われるが、そうなるとウィズコロナと呼ばれるようにこの感染症はより身近なものとなり、感染の機会が増えて患者数は増加する可能性がある」と指摘。「『ウィズコロナ治療方法』をより進歩させ、医療体制を整備しておくことはもちろん、これからは感染した場合に発症および重症化を防ぐためにワクチンを接種しておくことが成人においてはより重要となる」と話した。
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