2022/04/04【新型コロナウイルス:COVID-19】新型コロナ 全論文解読 ~AIで迫る いま知りたいこと~

この記事は、2020年11月8日に放送した「NHKスペシャル 新型コロナ 全論文解読~AIで迫る 今知りたいこと~」をもとに制作し、2021年3月26日に公開したものを再公開しました。
冬場に懸念されていた新型コロナウイルス感染の急拡大。NHKはAIで新型コロナに関する20万本以上の論文を解読し、冬が迫る中、何が注目を集め、世界でどのような研究が行われているのかを探った。さらに、AIが判定したトップクラスの研究者が私たちの疑問に回答。「新型コロナウイルス」の真実とは?

■冬、日本の感染者は急増する?

全世界で発表された、新型コロナウイルスに関する論文は20万本以上。その論文の「すべての文字情報」をAI(人工知能)に読み込ませ、どのような言葉がよく使われているか、どの論文がどの論文と関係しているのかなどを分析し、注目すべき研究やキーワードを抽出。さらにAIが選んだ「新型コロナ研究でトップを走る研究者たち」の見解を交え、新型コロナウイルスに関する気になる疑問に迫る。
今回のテーマはこちら。
1.この冬、日本の感染者は急増する?
2.収束はいつ?決定打は?
3.風邪とは大違い!新型コロナ“真の脅威”
4.見えた!“究極”のウイルス対策

<今回の4つのテーマ>

まずAIで「冬場」に関係する論文350本以上を洗い出し、その中から「感染拡大」と関連するキーワードを、その言葉が論文に登場した回数でランキング化した。AIがはじきだした上位3つのキーワードは「ビタミン・湿度・気温」。
ビタミンに関しては、多くの論文でビタミンDが「免疫力を維持する働き」に注目。冬場、日照時間が短くなると体内のビタミンDが減り、感染拡大のリスクが高まる可能性が指摘された。
さらに湿度と気温については、気温と湿度が「ウイルスの生存時間」を大きく左右するという点を、多くの論文が重要視。

<ウイルスの生存時間(新型コロナ) ※プラスチックに付着したウイルス>

「気温35度、湿度60%」という夏場の条件では、物(プラスチック)の表面に付着した新型コロナウイルスが生きられるのはおよそ2時間。ところが「気温24度、湿度20%」という秋口の条件では15時間も生き続けるという報告もある。低温と乾燥で、ウイルスの生存時間が長くなると、感染拡大のリスクが確実に高まると考えられるのだ。
さらに、「パンデミックは2022年以降も続く」とする論文を発表した予測研究の世界的な権威、マーク・リプシッチ教授は次のように指摘する。

<ハーバード大学 公衆衛生学部 マーク・リプシッチ教授>

「この冬、日本でどれほど感染が広がるか予測するのは困難です。ただ言えるのは、春や夏と同じような対策で乗り切るのは難しいということです。日本でも感染者が急増する可能性はあると思います」(ハーバード大学 公衆衛生学部 マーク・リプシッチ教授)

■日本の特別な要因「交差免疫」

下図は各国のこれまでの死亡者数を示したグラフ。日本を含む東アジアの国々は、明らかに欧米より低い死亡率を維持している。

<100万人あたりの死亡者数 米ジョンズ・ホプキンス大学集計(2020年11月時点)>

そこで、全論文AIでとくに最近、感染予測の論文によく現れるようになった「急上昇ワード」を抽出したところ、日本の低い死亡率と深い関係がありそうなキーワードとして「交差免疫」が浮かび上がってきた。

<交差免疫の仕組み>

私たちがあるウイルスに感染すると、体内の免疫細胞は「抗体」と呼ばれる武器を作りだしてウイルスを撃退する。この免疫細胞の能力は、ウイルスが体内から消えた後も、一定期間保たれる。その後、最初のウイルスとよく似た、別のウイルスが侵入してくると、攻撃力を保ったままの免疫細胞が再び抗体を作り出し、それがよく似たウイルスもやっつけて重症化を防ぐ。これが「交差免疫」の仕組みだ。
多くの論文が、普通の風邪を引き起こす「季節性コロナウイルス」の交差免疫に注目。その効果を、実際の新型コロナ患者で確認した論文が最近発表された。

<新型コロナウイルスで重症化した割合(Manish Sagar et.al J Clin Invest. 2020.)>

過去に季節性コロナに感染していない患者では、新型コロナで重症化する割合が28.1%。一方、季節性コロナに感染したことのある患者では、わずか4.8%しか重症化していなかったことが分かったのだ。
では、どのくらいの日本人が新型コロナに効く「交差免疫」を持っているのか?
最近、東京大学・児玉龍彦さんの研究チームが、日本の新型コロナ患者、およそ50人の血液分析を行った。すると、およそ75%の人が新型コロナに反応する交差免疫を持っている可能性が浮かび上がってきたという。そもそもコロナウイルスの仲間は、これまでとくに東アジア地域で頻繁に流行を繰り返してきた。そのため、多くの日本人が新型コロナに効く交差免疫を持っているのではないか、と児玉教授は考えている。

<東京大学 先端科学技術センター 児玉龍彦名誉教授>

「日本の場合は交差免疫があるとすると、感染の広がりが多人数にならないし、排出されるウイルス量も多くない。かかっても、軽症から中等症で終わっている人が多い」(東京大学 先端科学技術センター 児玉龍彦名誉教授)
さらに臨床で治療の最前線に立つ高山義浩さんは、高齢者の死亡率の高さから今後も警戒を緩めることはできないと話す。
「実際に臨床していて、本当に重症化する高齢者が多いんです。日本でこれまで(感染した人全体の)致死率が1.8%。一方、70歳以上の高齢者の致死率は12%に跳ね上がります。8人に1人がお亡くなりになる。決して、警戒を緩めてはいけないと思います」(沖縄県立中部病院 高山義浩さん)

■マスクで免疫力を獲得できる!?

さらに感染予測に関連する論文を丹念に探っていくと、興味深い論文を発見することができた。

<マスクに関する論文の画像(Monica Gandhi et.al J Gen Intern Med 35(10):3063-6)>

この論文には「マスクをすることで、たくさんの人々が免疫を獲得できる」と記されていた。
マスクと免疫の意外な関係を明らかにしたのは、アメリカの病院で行われた、ある貴重な研究。特別な隔離を行わない状況で新型コロナに感染した軽症の患者が入院している間、病院のスタッフなどにどれほど感染が広がるかを調べたというものだ。

<病院で行われた研究結果のイメージ図>

研究に協力した37人は、常にマスクを着用していたが、それでも3週間後、13人が感染が確認された。しかし、症状が出たのは1人だけ。他の12人は「無症状」だったのだ。
これまで集団感染の調査では、マスクをしていないと、無症状で済む感染者はおよそ20%にとどまると報告されていた。しかし、全員がマスクを着用していたこの研究では、無症状の割合が92%にまで達した上、なんと無症状で済んだ全員が、新型コロナに対する免疫力を獲得していたというのだ。
研究チームが考える理由はこうだ。まず、マスクをしていると吸い込むウイルスの量が減り、症状は軽くて済むと考えられる。さらに、この「微量の感染」によって、免疫細胞はウイルスを攻撃する抗体を少しだけ作りだせるようになる。その後も「微量感染」が繰り返されると、免疫細胞は少しずつ訓練され、作りだせる抗体の量が増え、結果的に免疫力を獲得できたのではないかと考えられるのだ。
この研究によると、無症状の12人で確認された抗体の量は、一般的な抗体検査の基準の3倍。マスクを通じた「微量感染の繰り返し」で、免疫力が高められた可能性があると研究者は考えている。
きちんと着けていれば、「吸い込むウイルス量を減らす」「免疫力が高められる」といったことが期待できるマスクの効果。ただし、まだ分かっていないこともあり、今後の研究が待たれている。

■新型コロナ 収束はいつ?

いつ、何が、このパンデミックを収束へと導いてくれるのか?
全論文AIが、新型コロナ関連の論文を発表した研究者すべてを対象に、論文の数や他の論文への影響力などを分析。そこから浮かび上がった、「新型コロナ研究で世界のトップを走る研究者たち」に、“パンデミックがいつ収束すると思うか”を尋ねた。

<トップ研究者に聞く パンデミックはいつ収束するか?>

回答で最も多かったのは、「2021年8~9月」(4人)。そのほか、2021年以内のどこかが2人、2022年末が3人、収束しないと答えた人も1人、という結果だった。

【収束は2021年の夏ごろ、と予測】

<ワクチン研究の第一人者 フロリアン・クラマーさん>

「最も楽観的なシナリオはワクチンがまもなく市場に出る場合です。そうなれば、2021年の春の終わり頃には、リスクの高い人のほとんどがワクチンを接種できるでしょう。夏にはかなり落ち着いているはずです。」(マウントサイナイ医科大学 フロリアン・クラマー教授)

【収束は2021年末、と予測】

<ワクチン開発の世界的権威 ダン・バルークさん>

「まもなく出るワクチンの臨床試験の結果によって、シナリオは全く違うものになるでしょう。ワクチンが90%の人に効く場合と、50%の人にしか効かない場合では、パンデミックを収束させる能力は全く違うからです。ただ、ワクチン無しでパンデミックを終わらせる方法を、私は1つも思いつきません」(ハーバード大学 医学部 ダン・バルーク教授)
世界中の期待がかかっているワクチン。その開発に際する重要なポイントを、ワクチン開発のトップランナー、長谷川秀樹さんはこう語る。

<国立感染症研究所 長谷川秀樹さん>

「すでに臨床の治験に進んでいるものも多数ありまして、その報告の中には、今までのワクチンよりも副反応が多いものも含まれています。そういった点で、すべての人に打てるワクチンがいつできるのか、というのが非常に重要なポイントになってこようかと思います。安全性を重視していかなければならないと考えています」(国立感染症研究所 長谷川秀樹さん)
さらに「インフルエンザの予防接種が、新型コロナにも効果があるのではないか」という疑問については、専門家の間でも意見が分かれた。
「新型コロナに対する効果は、私はあまり期待しないほうがいいかなと」(国立感染症研究所 長谷川秀樹さん)
「私は長谷川先生とは異なる意見で、インフルエンザのワクチンもある程度、新型コロナよけに働くであろうと考えています。ワクチンを打つと、どのウイルスでもどの病原体でも働く広い免疫、“自然免疫”を強められる可能性があります」(大阪大学 免疫学フロンティア研究センター 宮坂昌之さん)
さらに臨床の最前線に立つ高山義浩さんは、今私たちがすべきこととして「医療環境の整備」をあげた。

<沖縄県立中部病院 高山義浩さん>

「(新型コロナの)ワクチンができたとしても、突然変異というちゃぶ台返しを持っているので。どういう状況があっても対応できるように、患者さんたちを支えていけるように、医療環境を整えていくことが、今私たちがすべきことだと思います」(沖縄県立中部病院 高山義浩さん)

■風邪とは大違い!注目の症状「脳の霧」とは?

新型コロナに感染したことがきっかけで引き起こされる、さまざまな症状。
関連する論文をAIで分析すると、報告されている症状は全身のいたる所に現れており、その数は100以上。下痢・不整脈・目の充血、さらに脳に関わる、脳卒中や幻覚。普通の風邪では考えられないような症状も多く含まれていた。中でも研究者の注目が急速に集まっていたのが“ブレインフォグ”「脳の霧」と呼ばれる症状だ。
2020年4月に新型コロナに感染した男性も、「脳の霧」のような症状を経験したという。男性は、感染から3か月以上も発熱を繰り返し、めまいや頭痛、激しいけん怠感に襲われた。さらに不可解だったのは、頭にモヤがかかったようにボーッとなる症状。授業を受けていても、内容を記憶することや、文字を書くことが難しくなってしまったと話す。
いったい、脳の中では何が起きているのか?

<脳のイメージ画像>

イギリスで行われた研究によると、認知機能に大幅な低下が見られた新型コロナ患者の脳の中心部、記憶力や感情などを司る場所で、炎症が起きていたことが分かった。
では、なぜ脳に炎症が起きるのか?そのメカニズムに迫る、最新の論文が見つかった。

<脈絡そうイメージ図>

口や鼻から肺の奥へと侵入した新型コロナウイルス。肺の細胞の表面にある「ACE2」と呼ばれる小さな突起にくっつくことで細胞に侵入し、感染することが分かっている。厄介なことに、新型コロナが狙う「ACE2の突起」が、脳にも存在していることが突き止められた。そこは脳の中心部「脈絡そう」と呼ばれる場所だ。
実は「脈絡そう」は、脳に異物が侵入するのを防ぐ、大切なバリアの役割を果たしている。通常は、血液に乗ってウイルスなどがやってきても、脈絡そうの表面の細胞に阻まれて脳内に入ることはできない。
<脈絡そう拡大イメージ図>
ところが、新型コロナは脈絡そうの表面の細胞にある「ACE2」の突起にくっついて感染。バリアを破壊してしまう。すると、そこからウイルスや異物が脳に侵入。炎症が引き起こされ、ウイルスが消えた後もそれが長く続くと考えられるのだ。
「(バリアが壊れて)炎症が起きてくると、COVID-19(新型コロナ)の呼吸器症状は治ったのに、なぜかけん怠感が続く、思考力・集中力が落ちてしまう。今後、感染した人たちがどのように回復しているのか、ということを見ていく必要があると思います」(大阪市立大学 倉恒弘彦さん)
普通の風邪のウイルスは、多くの場合、呼吸器にしか感染しない。ところが、新型コロナが狙うACE2は全身に存在するため、腎臓や心臓、血管などさまざまな場所に感染することが可能なのだ。
アメリカで30年近く研究を続ける、イェール大学の免疫学者、岩崎明子さん。コロナで亡くなった患者3人の脳を調べたところ、そのうちの1人の脳に感染が見られたという。さらに脳が炎症を起こす原因として考えられる可能性をこう指摘した。

<イェール大学 医学部 岩崎明子教授>

「ある人には直接感染、そして、ほかの人には、もしかしたら免疫の暴走が脳の炎症を引き起こしている可能性もあります。もっとよく調べる必要があります」(イェール大学 医学部 岩崎明子教授)
新型コロナによって引き起こされる、長く続く奇妙な症状。これを訴える患者は少なくないと臨床の最前線に立つ高山義浩さんは語る。
「国立国際医療研究センターの先生方が、63人の患者さんに発症してから60日後に電話をかけて、今どうですかと質問をしているんです。その結果、約2割(20%)の人に呼吸困難が続いている。さらに16%の方がだるい、けん怠感が続いている。せきが続くという人もいらっしゃいました。こうした症状が続いていることを、訴えられない患者さんたちもいると思います」(沖縄県立中部病院 高山義浩さん)
さらに、症状が長く続きやすい方の特徴として、岩崎さんは以下の項目をあげた。
「最近のニューヨークのクリニックのデータによりますと、長く症状が続く患者の8割が女性で平均年齢は44歳。(女性が多いのは)おそらく自己免疫が関係しているかもしれないと思っています。リウマチなど、自己免疫疾患は女性が圧倒的に多いんですけれど、すごく活性化されやすい免疫を持っている人が多い。若くてアスレティック(健康)だからといって、注意をしないとおっしゃる方たちにも、長く続く症状もたくさんあるということを分かってもらい、注意してもらう。それがすごく大切だと思います」(イェール大学 医学部 岩崎明子教授)

■ウイルス対策① 加湿

どうすれば、新型コロナから身を守ることができるのか?
「感染予防」に関するキーワードを全論文AIで抽出したところ、最近発表された「加湿」に関する興味深い論文が浮かび上がった。著者は世界トップクラスの研究者の1人、岩崎明子さん。論文の中で注目されていたのは、私たちの喉の奥に備わった「バリア機能」だ。
気道の表面を覆う、「線毛」という毛のような組織。細かく動いて、体に侵入したウイルスなどの異物を、外へ外へと押し戻す大切な働きをしている。岩崎さんたちは、ウイルスを模した異物が線毛によって押し戻される様子を、特殊な方法で撮影した。

<線毛によって異物が押し戻される様子(Kudo et al. 2019 PNAS)>

上の映像の左は湿度50%の場合。右が湿度10%の乾燥した状態。異物の動きを示す線に注目すると、乾燥状態では異物を押し戻す動きが大幅に悪くなってしまうことが分かる。
「粘液を使ったバリアなので、乾燥すると線毛が動かなくなって、それでバリアの力も落ちてしまう。湿度が40%~60%でバリアの働きが一番良くなりまして、その湿度を保てれば、一番健康に良い湿度だと思います」(イェール大学 医学部 岩崎明子教授)
さらに加湿は、空気中を漂うウイルスの対策にも、大きな効果があることが分かってきた。それを明らかにしたのは、理化学研究所が持つ、世界最高性能のスーパーコンピューター「富岳」。数万個におよぶ飛まつの動きをシミュレーションしたのだ。

<飛まつの動きのシミュレーション(画像提供:理研・豊橋技科大・神戸大 画像開発協力:京工繊大)>

まずは、湿度10%の乾燥した室内の場合。軽いせきなどで飛び散った飛まつのうち、比較的、粒の大きい、赤やオレンジの飛まつは早く下に落ちる。しかし青色の小さな飛まつは遠くまで飛び、長く空気中を漂う。
一方、湿度を60%まで加湿した場合。湿度10%より、下に落ちる飛まつの量が増えている。湿度が高いと飛まつの水分が多くなり、重みで落下しやすくなるのだ。湿度を30%から60%に上げただけでも、飛まつが遠くまで飛び散る量はおよそ半分に減ることも分かった。

<1.8m先まで飛散する飛まつ量>

「加湿」に関する論文を発表した岩崎さんは、「室内の湿度は40~60%の間に保つのがいい」と話す。
「(湿度が)高すぎると、カビが生えたりする状態になってしまいますので、40~60%というのが最適だと思います」(イェール大学 医学部 岩崎明子教授)
また、加湿している部屋では「拭き掃除」も重要だと高山さんは話す。
「テーブルや床に落ちたウイルスが残存しやすいので、清掃も合わせてやることが大事です。またカビの話もありましたが、ほかの感染症のリスクにもなりますから、加湿と掃除を丁寧に、ということです」(沖縄県立中部病院 高山義浩さん)
また岩崎さんは、冬場の対策の1つとして「鼻を冷やさない」ことをあげた。

<イェール大学 医学部 岩崎明子教授>

「寒い冬に冷たい空気を吸うと、鼻の中がちょっと冷めてしまうんです。37度が体の中の温度だとしたら、33度くらいに下がっただけでもウイルスが増えて広がってしまう。ライノウイルスという、風邪のウイルスで調べたんですが、そういう結果が出ています。加湿器も大事ですが、鼻を冷やさないように。マスクには、そういった効果もあるのではないかと思います」(イェール大学 岩崎明子さん)

■ウイルス対策② 紫外線「222」

もう1つ「感染予防」に関するキーワードとして浮かび上がったのが「紫外線」と「222」。ある論文のタイトルに、その数字が見つかった。

<Buonanno et al. 2020 scientific reports>

実はこれまで、殺菌に使われてきた紫外線は、人に当たると、皮膚の奥の細胞に影響を与え、皮膚がんや日焼けなどを引き起こすリスクがあった。ところが、「波長222nm(ナノメートル)の紫外線」は、皮膚の奥までは届かず、人体に悪影響を与えないと考えられている。

<紫外線222nm照射による新型コロナウイルスの除去効果(Kitagawa et al. 2020 American Journal of Infection Control)>

しかも実験でこの紫外線を新型コロナウイルスに当ててみると、わずか10秒でおよそ9割も無害化できることが明らかになった。(現在、一般向けに「222nmの紫外線」を照射できる装置は販売されていない)
空気中を漂うウイルスへの対策。紫外線以外にも「低濃度のオゾンガス」を使ってウイルスを無害化する技術は、日本の研究チームによって効果が確かめられ、タクシーや飲食店で実用化が進んでいる。さまざまな新たな技術の活用が期待される一方で、それらに頼りすぎない注意も必要だと高山さんは指摘する。
「新しい技術をうまく活用していけば、さらに強い社会に持っていける可能性はあると思います。ただ、新しい技術に飛びつく人たちの中には、やるべきことをおろそかにして、これに守られているに違いないとなって、グダグダになってしまうことがあるので、そこはきちんと踏まえていただきたいです」(沖縄県立中部病院 高山義浩さん)
感染が再び急拡大しつつある新型コロナウイルス。今回AIの解析で見えてきた新たなテーマを踏まえ、これから私たちはどのように対応していけばいいのだろうか。

<大阪大学免疫学フロンティア研究センター 宮坂昌之さん>

「3密を避ける、手を洗い、マスクをする。送風換気をする。基本的な防御策をしっかり守れば、このウイルスにはそうは簡単に感染しません。必ずこのウイルスに私たちは勝つことができるだろうと、私は思っています」(大阪大学免疫学フロンティア研究センター 宮坂昌之さん)

<全論文AI イメージ図>

「論文を20万件、解析して見せていただく機会は非常に貴重でした。科学者の間でもさまざまな議論があって、意見は一致していないこともあります。で、われわれはどうしても、自分の周りにあるもの、われわれ自身の結果、そういうものが正しいと信じてしまうことがありますよね。また論文を読むときには、珍しいものが目立つということがあって。このように全体を見ることができると、実際に起こっているのは何かが分かってくる。こういうデータを集めることによって、次のパンデミックへの備えにもなるように、きちっとデータをまとめていくことが重要かなと思いました」(国立感染症研究所 長谷川秀樹さん)
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • follow us in feedly

関連記事

  1. 2017-8-7

    学術雑誌「医療看護環境学」を創刊致しました!

    学術雑誌「医療看護環境学」を創刊致しました! どうぞご利用ください! 医療看護環境学の目的 …
  2. 2021-4-1

    感染症ガイドMAP

    様々な感染症情報のガイドMAPです 下記のガイドを参考に、情報をお調べください。 感染症.com…
  3. 2021-4-1

    感染症.comのご利用ガイドMAP

    一緒に問題を解決しましょう! お客様の勇気ある一歩を、感染症.comは応援致します! 当サイトを…
  4. 2022-9-1

    感染対策シニアアドバイザー2022年改訂版のお知らせ

    感染対策シニアアドバイザーを2022年版に改訂しました! 感染対策の最前線で働く職員の…
  5. 2022-9-1

    感染対策アドバイザー2022年改訂版のお知らせ

    感染対策アドバイザーを2022年版に改訂しました! 一般企業の職員でも基礎から学べ、実…

おすすめ記事

ページ上部へ戻る