新型コロナウイルスへの感染と、目の血管が詰まって失明を引き起こす「網膜血管閉塞」には関連性があることが、2022年4月に米医師会機関誌「JAMA 眼科学」が発表した研究で明らかになった。ほとんど知られていない新型コロナウイルスによる長期的影響のひとつが浮き彫りになったかたちだ。
■大きく分けると、網膜血管閉塞には2つの種類がある。
ひとつめは、動脈が詰まる「網膜動脈閉塞症」だ。発症すると、急に目がかすんだり見えにくくなったりする。今回の研究では、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)と診断された26週間前から2週間前までと比較して、診断後の2週間後から26週間後に、発症が29.9%増加したことがわかった。
もうひとつは、静脈が詰まる「網膜静脈閉塞症」だ。症状は網膜動脈閉塞症と似ているが、こちらのほうが新型コロナウイルス感染症との関連がより強い。研究では、コロナと診断された26週間前から2週間前までと比較して、診断後の2週間後から26週間後には、発症が47%増加したことが明らかになった。
新型コロナウイルス感染症と、静脈が詰まる網膜静脈閉塞症との強い関連性は、過去の研究で示唆されてきたことを裏づけているようだ。研究チームによると、新型コロナウイルス感染症は一般的に、動脈よりも静脈への影響のほうがより深刻だとされてきたという。今回の知見は、新型コロナウイルス感染症患者への治療法にも影響を与える可能性がある。
新型コロナウイルス感染症にかかったとしても、そのあとで網膜血管閉塞を発症するケースは稀だ。新型コロナウイルス感染症と診断された2週間後から26週間後までのあいだに網膜動脈閉塞症を発症した患者は、およそ33万3333人に1人だった。一方、網膜静脈閉塞症を発症した患者は、およそ8万1967人に1人だった。
新型コロナウイルス感染症で入院した患者のほうが、入院しなかった患者より、網膜血管閉塞になる可能性が高いかどうかは、研究では確認されなかった。
■発症後の転帰はさまざま
この研究は、2020年1月20日から2021年5月31日のあいだに、新型コロナウイルス感染症と診断された43万2515人を対象に行われた。全員が、診断時からさかのぼって6カ月以上、網膜血管閉塞を発症していなかった。
網膜血管閉塞は、網膜の血管が、血栓や脂肪沈着で詰まることにより発症する。網膜は、目に入ってくる光をキャッチして、その視覚情報を脳に伝える役割を果たす器官だ。網膜の血管が詰まると、若干の視力低下から完全な失明まで、さまざまなダメージが起きる。
米国国立医学図書館(NLM)が提供する保健・医療情報データベース「Medline Plus」によると、網膜静脈閉塞症は、糖尿病や高血圧、動脈内に沈着した脂肪、緑内障などの眼疾患と関連している。
発症後の転帰はさまざまだ。多くの場合は、視力がある程度戻ってくる一方で、網膜血管閉塞が原因で完全に失明してしまった場合の確実な治療法はない。
医療機関ジョンズ・ホプキンス・メディスン(Johns Hopkins Medicine)によると、血管の詰まりは、体内のどこかに血栓や脂肪沈着が存在している可能性を示唆しており、脳卒中の発症リスクを知らせている。
「JAMA 眼科学」で発表されたこの研究では、重症患者における網膜血管閉塞の発症リスクが過小評価された可能性がある。容態が重い患者が、視力の変化を周囲の医療従事者に伝えられなかった可能性がある、と研究者は指摘している。
また、今回の研究では、新型コロナウイルス感染症と網膜血管閉塞のあいだに関係性があることが判明したが、両者の因果関係を確定するためにはさらなる研究が必要だ、と研究チームは述べている。