夏は食中毒の危険性が高まる季節。もしも飲食店で提供された料理が原因で食中毒になったなら、店に治療費や慰謝料を請求できるのだろうか。弁護士の竹下正己氏が実際の相談に回答する形で解説する。
【相談】
先日、友人2人と一緒に居酒屋に行きました。その2日後に発熱と嘔吐があり、病院へ行ったところ、医師から食中毒だと言われました。一緒に行った友人2人にも聞いたところ、似たような症状があったので、居酒屋で食べたささみの焼き鳥がおそらく生焼けだったのだと思います。居酒屋に治療費や慰謝料を請求することはできますか。(39才・会社員女性)
【回答】
食中毒とは、食中毒を起こす細菌やウイルス、寄生虫その他有毒物質がついた食べ物を食べることで下痢や腹痛、発熱、吐き気などの症状が出る病気です。
食中毒の治療費や慰謝料を請求するには、料理あるいはその食材が原因で食中毒という結果が生じたという原因結果の関係(因果関係)があり、料理を提供した居酒屋に注意義務違反があるか、食材を居酒屋に販売した業者に製造物責任を問えることが必要です。
因果関係とは、まったく疑いを入れない厳密な科学的証明を経たものではなく、通常であればこの原因からこの結果が生じるという程度の関係、すなわち相当因果関係で足ります。しかし、食中毒の原因はさまざまであり、その飲食店の提供した料理やその食材と食中毒との相当因果関係を証明することは素人では困難です。
しかし、食品衛生法により、食中毒を診断した医師はただちに最寄りの保健所長にその旨を届け出る義務があります。
届け出を受けた保健所長は、食中毒患者が発生していると判断すれば、都道府県知事に報告し、中毒の原因となった食品、添加物、器具、容器包装などから病因物質を絞り込んで追究する疫学的調査を行います。さらに、食中毒患者のふん尿や嘔吐物等についても検査を行って原因を調査します。その結果、食中毒の原因が明らかにされることがあります。
居酒屋の食材や料理に食中毒の原因物質が見つかり、あなたの嘔吐物にも同じ原因物質があったり、その原因物質によって通常発生するとされている食中毒とあなたの症状が合致していれば、あなたたち3人が同じ居酒屋で同じ料理を食べて同じ症状が出ているので、居酒屋の提供した料理等と食中毒との相当因果関係があるといえます。
食品は、その性質上、無条件的な安全性が求められ、食材を販売したり料理を提供したりする業者には、高度の注意義務があります。
原因が前例のない極めてまれなもので対処方法がない場合は別として、食材に食中毒の原因となる毒素が含まれていれば、その食品は通常有すべき安全性を欠いているので、その販売業者は製造物責任を負います。
また居酒屋は、例えば充分な加熱など食中毒を防止できる調理方法があるのに怠っていれば債務不履行責任を負います。
そこで、まずは食中毒を診断した医師に保健所への届け出を念押しするとともに、あなた自身も友人とともに保健所に相談するのがよいと思います。