【百日咳】大人もかかる百日ぜき 子どもへの感染源に 海外ではワクチンも
激しいせきが長く続く「百日ぜき」は、幼い子どもの病気という印象が強いが、近年、大人の患者が増えている。重症化しやすい赤ちゃんへの感染源になるため、専門家は警戒を呼び掛ける。国も患者数の調査方法を見直すなど、対策強化に乗り出した。
▽変わる患者像
百日ぜきは百日ぜき菌による感染症。風邪のような症状で始まり、だんだんせきが強くなる。けいれんするような激しいせきや、息を吸うときにヒューと音が鳴るなどの特徴的な症状がある。菌は、せきやくしゃみのしぶきなどで広がり、治療には抗菌薬を使う。
ワクチンを打っていない赤ちゃんがかかると重症になりやすく、肺炎や脳炎を発症することや、死亡する場合もある。特に生後6カ月未満は注意が必要だ。
国は、全国約3千の小児科の定点医療機関による報告で患者数を把握している。厚生労働省などによると、近年の報告数は年2千~3千人。1980年代初めにワクチンが導入された結果、約30年で報告数は約10分の1になった。
かつて患者の多くは0歳児だったが、2002年ごろから大人の患者が増えだした。07年には複数の大学で患者が集団発生。全国的に流行した10年には、小児科からの報告なのに約半数を大人が占めた。
▽知らずにうつす
大人の百日ぜきは子どものように重症になることは少ない。だが、国立感染症研究所の神谷元・主任研究官は「子どもを守るためには、大人の百日ぜきを予防することが必要」と強調する。子どもの百日ぜきは、大人が主要な感染源になっているとみられるからだ。
感染研によると、家族内に感染者がいると、百日ぜきに対する免疫のない人が二次感染する確率は80%を超える。米国では、乳児への百日ぜきの感染源の75%が父母や祖父母などの大人だという報告がある。重症にならないだけに、知らぬ間にうつしてしまう恐れもある。
日本では現在、大人の患者がどれくらいいるか正確な数は把握できていない。そこで厚労省は18年1月から、全ての患者を報告する全数把握疾患とすることを決めた。
▽効果が低下
百日ぜきの予防にはワクチンが有効だ。国内ではワクチンが定期接種になっており、生後3カ月から計4回の接種を原則無料で受けられる。感染研によると、0歳児後半での抗体保有率は90%以上になる。
ただ問題は、その効果が長続きしないこと。4~12年で急激に低下することが分かってきた。そこで11、12歳が対象の2種混合ワクチンに百日ぜきを加え、予防効果を高めることが厚労省の審議会で検討されている。
百日ぜきに詳しい国立病院機構三重病院の谷口清州・臨床研究部長は「全数把握で何歳ぐらいの患者が多いかがはっきりすれば、ワクチンの追加接種の戦略も立てやすくなる。だが症状が軽い大人も正しい診断を受けるには、市民と医療機関双方への啓発が重要になる」と課題を指摘する。
大人の百日ぜき患者が増えているのは海外も共通。感染研の神谷さんによると、日本とほぼ同時期に報告例が増え始めた米国では、追加接種用の大人向けワクチンが承認され、赤ちゃんと接する機会が多い人への接種が推奨されている。
「百日ぜきは死亡例もある侮れない病気。日本でも、重症化しやすい子どもと接する機会の多い家族や医療者は追加接種を検討する必要があるのではないか」と神谷さんは話している。