2017/12/01【HACCP】食店もHACCP義務化。知っておきたい導入のメリットと衛生管理のはじめ方
【HACCP】食店もHACCP義務化。知っておきたい導入のメリットと衛生管理のはじめ方
厚生労働省は2018年度内を目指して、すべての食品等事業者を対象としたHACCP(ハサップ)による衛生管理の制度化を進めると発表した。これまでHACCPといえば、製造業の大手や輸出業など特定の事業者が導入するものという認識が広がっていたが、これからは飲食店や小売店、物流倉庫など、業界や大手・中小の規模を問わず、義務付けられることになる。このため事業者には、HACCPの知識を早期に習得し、事業に取り込むことが求められていく。
今回は、HACCP普及に取り組むNPO法人HACCP実践研究会に、特に導入が遅れている飲食業界の事業者向けに、その本質と導入のはじめ方を伺った。
HACCP制度化の背景
HACCP(Hazard Analysis and Critical Control Point:ハサップ)とは、食中毒を予防するための衛生管理の手法である。その内容は、食品の製造・加工工程のあらゆる段階で発生するおそれのある微生物汚染などの危害をあらかじめ分析(Hazard Analysis)し、製造工程のどの段階で、どのような対策を講じればより安全な製品を得ることができるかという重要管理点(Critical Control Point)を定め、連続的に監視することだ。なぜ今、制度化が進められているのだろうか。
「厚生労働省のHACCP普及中央協議会は、2015年3月の第1回開催からHACCPの義務化を見据えて自治体の条例改正などを進めてきました。その背景には、社会的に食中毒事故がなかなか減らないこと、異物混入などによる製品回収が多いこと、食品の輸出拡大や東京オリンピック開催などで日本の食の衛生管理基準が世界的に求められていることなどが挙げられます」
特に厚生労働省が発表した2016年の食中毒発生状況をみると、その60%は飲食店で発生している。個店などを含めて衛生レベルを上げていこうというのが狙いのようだ。
事業者の無関心による、HACCPの誤解
日本は1996年にHACCP普及推進のため、食品衛生法で認証制度を開始した。それから20年ほどだった現在、事業者の普及率はどうなっているだろうか。
「農林水産省の調査によると、製造業では売上高が100億円以上の企業で8割超の導入率ですが、50億円以下の規模では、3割ほどとなっています。また、外食でも数十店以上のチェーン展開している企業はHACCPを導入しているところがありますが、中小企業はまだ普及していません。その大きな原因は、そもそも経営者や事業責任者がHACCP自体を知ろうとしないこと、つまり無関心にあります」
事業者が無関心なため、正しいHACCPの知識がなく様々な誤解も生まれているという。
「“HACCP導入には多くの費用がかかる”“専門知識を持った人材が必要”“利益につながらない”といった誤った先入観が広がっているのが実状です。しかし、HACCPを導入するにあたっては、低コストの運用が企業間で主流となっています」
HACCPの取り組みは、業務の効率化や従業員教育にも有効
HACCPの実務は、一般的衛生管理の5S(整理・整頓・清掃・清潔・しつけ)や7S(5S+洗浄・殺菌)を継続的に監視することだ。取り組んでいる企業は、様々なメリットがあるという。
「HACCPを正しく導入することで、品質管理による不良在庫(食材、器具など)の減少だけでなく、物を置く場所をきちんと決めるなどで職場環境が変わり、業務効率の向上や経費節約につながった例もあります。食中毒の予防以外にも、大きなメリットがあるのです」
また、HACCPは環境改善以外に、従業員教育の観点でも大きなメリットがあるという。
「これまでに飲食店のアルバイトが冷蔵庫に土足で入って寝そべったり、食材で遊んだりするなどのバイトテロがたびたび問題になりました。なぜ彼らはそんなことをするのでしょうか。その原因のひとつに、従業員が、何が食中毒の危害になるかを知らないことが挙げられます。例えば食中毒菌のノロウィルスは常在菌で、発症しない人でも保有していることがあります。保有者が冷蔵庫に入ったり食材を素手で触ったり、トイレで手を洗わずにドアノブを触ったりすれば、菌が器具や食材、他の人の手に移って料理の中に入ってしまうのは当然です」
また、従業員への注意の仕方にもコツがあるという。
「こういった注意は“手を洗いなさい”というだけでは理解されず、防止につながりません。“〇〇だから食材を直接触るときは手を洗いなさい”と、きちんと危害を知らせることが重要です。そうすれば、アルバイトの意識も上向くようになります。HACCPの本質は、自店の危害を知ることなのです」
自店の危害を知るようになれば、食中毒以外にも、異物やアレルギー物質のコンタミネーションなどの防止にも意識が向き、一層の管理強化につながるという。
HACCPの本質は、自店の危害を知り、PDCAサイクル化すること
それでは実際に、飲食店がHACCPを導入するために何をすればよいのだろうか。2017年10月、厚生労働省は「HACCPの考え方に基づく衛生管理のための手引書(小規模な一般飲食店事業者向け)」を公表した。この中で次の3点が実施項目に挙げられている。
【HACCPに基づく衛生管理】
1.衛生管理計画の策定
2.計画に基づく実施
3.確認・記録
(参考)厚生労働省 食品等事業者団体が作成した業種別手引書
衛生管理計画とは、事業者が実際に取り組んでいる衛生管理と、メニューに応じた注意点(加熱する、冷蔵するなど)を明確にして一覧化したものだ。詳細は厚生労働省の資料をご参照いただくとして、HACCP導入にあたっては第一歩が重要だという。
「HACCP導入のスタートは、食中毒防止の観点で、自店にとって何が原因となるかを探すことから始めましょう。またHACCPは日々の衛生活動に関することなので一度作業を標準化したら終わりというわけではありません。点検して記録するなどのPDCAサイクルで取り組むことで、今までの衛生管理のレベルがあがります」
これからは事業者の責任がいっそう明確に
現在、厚生労働省はHACCP制度化にあたり、ISOのような第三者による認証制度にはしないことで検討が進められている。つまり、すべての事業者が各々でHACCPを守ること、それが前提という考えだ。
「これまでは、事業者が食中毒事故などを起こした際、保健所が原因を調べて、“ここを直しなさい”と指導などして、数日間の営業停止後に再開することもできました。いわば事業者は、お役所に守られた環境にあったのです。しかし、これからはHACCPを導入していることが前提となります。もしHACCP手法をしないで食中毒事故などを起こせば、営業許可を出さないなどの罰則も考えられています。事業者の責任がいっそう明確になっていくでしょう」
HACCP制度化は2018年度内を目指して進んでおり、実施した際は数年間の移行期間があると考えられている。それまでに事業者は運用体制を整えておかねばならない。
「この制度を成長のチャンスと前向きにとらえ、すでにHACCPを導入している事業者の方は日々のPDCAにより更なる改善を、また、まだ導入されていない方は、完全施行までに様子を見ようとするのではなく、早めに取り組むことをお勧めします。待っている理由はありません」
https://www.foods-ch.com/anzen/1511917414214/?p=1