気温が下がり、空気が乾燥してくると、咳をする人が増える。咳を引き起こす病気の中でも、近ごろ注目されているのは“大人の百日咳”だ。
「かつては子どもだけの病気とされてきたが、近年、成人の発症が問題になっている」と話すのは、国立感染症研究所感染症疫学センター第一室主任研究官の神谷元さん。
厚生労働省が2018年1月から始めた調査によると、7月1日(第26週)までに報告された百日咳患者2517人のうち、20歳以上が4分の1を占めていた。大人の場合は咳の症状が強く出ないことも多く、「自覚のないまま菌をまき散らしている可能性もある」(神谷さん)。大人での死亡例はほとんどないが、体が未熟で百日咳の免疫が十分でない生後6カ月未満の乳幼児にとっては致命的になり得る。
百日咳は百日咳菌による感染症で、その名の通り、咳が数週間から数カ月続くのが特徴だ。百日咳菌の感染力は、感染力が非常に強いはしか(麻疹)と同程度といわれ、つばなどのしぶき(飛沫感染)や菌がついたものに触れる(接触感染)ことで広がっていく。
「ワクチンを接種している大人は百日咳にかかりにくいのでは?」と思う人は少なくないだろう。「子どもの頃に定期接種として4回ワクチンを受けている人でもワクチンの効果は4~12年で落ちるといわれている。そのため、小学校高学年や中高生、大人の間で百日咳患者が増えているようだ」(神谷さん)。大学生が集団感染を起こしたことも記憶に新しい。
感染を広げるのは、咳がさほどひどくない発症から3週間ほどの「カタル期」と考えられている。その後の激しい咳は百日咳菌が作り出す毒素に対する反応で、実はこの時期は咳をしても菌をまき散らしていない。
そのような中、2015年に新しい検査法が加わり、感染を広げやすいカタル期でも百日咳の判定ができるようになった。百日咳は発症から4週間以内に抗菌薬による治療を開始できれば咳の症状は軽くなり、治るまでの期間が短くなる。「大人でも咳が1週間続く場合は百日咳の可能性も考えてほしい。たかが咳と思わず、感染を広げないように早めに医療機関を受診して」と神谷さんは注意を促す。