大都市部を中心に急増している梅毒患者。中でも大阪府は100万人あたりの患者数が31.2人で、東京(同31.7人)と並び他の都市を引き離している。患者数は世界的に増加傾向にあり、訪日外国人客(インバウンド)の増加など国内外の移動の活発化が影響しているとの指摘も。海外からの誘客を狙う2025年万博やカジノを含む統合型リゾート施設(IR)の誘致を目指す府にとって対策は急務だ。
■急増した理由、予防方法と治療方法は…
「過去にない増え方だ」。府の担当者は梅毒の広がりに危機感を隠せない。府の患者数は今年1~11月時点で997人。6年前の10倍で、昨年1年間の845人もすでに上回った。女性患者の急増も目立っており、昨年の性別年代別の報告数は、20代の女性が最多だった。
なぜ増加するのか。東京都内で性感染症の診療に当たる「プライベートケアクリニック東京」院長の尾上泰彦医師は「疫学的調査が行われていないので不明」とした上で、「複数の人と性行為する人の増加、梅毒流行国からの観光客の増加などが影響を及ぼしているとの見方がある」と指摘。府の担当者も「インバウンドの増加で性風俗店を訪れる外国人が増えたことも一因に考えられる」と話す。
▼外国人医療費、際限なし 入国目的偽り治療
世界保健機関(WHO)の2012年の統計によると、世界の梅毒感染の報告数は約600万人。特に東南アジアやアフリカ地域で多くなっており、先進国でも増加傾向にある。
事態を重く見た府は昨年6月以降、HIV(エイズウイルス)検査と同時に受ける梅毒検査を無料化し、府内のコンビニエンスストア約3700店と大阪メトロ各駅のトイレに啓発用ステッカーを掲示した。先月の検査件数は769件で無料化前の倍以上に増加。一方、風俗店への注意喚起も進めているが、対応を拒否されるなど課題も多い。
患者は地方都市にも広まりつつある。3年前まで年間約10人程度で推移してきた広島県の患者数は平成29(2017)年に138人、今年はすでに153人だ。岡山県は今年上半期における県内の人口100万あたりの患者数が全国ワースト3位だった。
梅毒の感染予防には、男性用避妊具を使用し、感染部位と粘膜や皮膚が直接接触するのを避けることが重要だが、それでも完全に防げるわけではない。大阪健康安全基盤研究所の小林和夫研究員(65)は「梅毒は発疹が起きても痛みやかゆみを伴わないため、感染に気づきにくい」とした上で、「不安があれば必ず医師に相談してほしい」と呼びかけている。
近年日本で増加傾向にある梅毒。どのような特徴があるのだろうか。
Q 感染するとどうなるのか
A 陰部や肛門など感染部位にしこりができることがある。最初は痛みがない場合が多いが、治療をせずに3カ月以上放置すると病原体が血液によって全身に運ばれ、体全体にうっすらと赤い発疹が出ることもある。さらに数年が経過すると、皮膚や骨などに腫瘍が発生して心臓などの臓器が病変し、場合によっては死亡に至るケースもある。
Q 感染経路は
A 性行為などで感染者の粘膜や皮膚と直接接触することによって感染する。
Q 治療方法は
A 外来で処方された抗菌薬を飲むのが一般的。病変の部位によっては、入院して点滴で治療することもある。
Q 予防方法は
A 感染部位と皮膚や粘膜が直接接触しないようコンドームの使用が勧められているが、100%予防できるわけではない。皮膚や粘膜に異常があった場合は性的な接触をひかえ、早期に医療機関を受診する必要がある。