セレウス菌 Bacillus Cereus
日本では、「嘔吐型」が多い食中毒で、米飯、焼き飯によるものが多い食中毒の原因細菌です。
病原体について
セレウス菌は、どこでも見られる土の中の菌です。桿菌で芽胞を有する通性嫌気性菌で、厳しい環境下では、芽胞を形成して生き延びます。
この芽胞は、熱にも比較的強く、調理中に加熱しても生き残る可能性があります。セレウス菌は、生の食物、乾燥した食物、貯蔵している食物などにわずかに認められることがあります。
常在菌として、健康な成人の10%で腸管の中に見られます。菌は4~50℃で発育、芽胞は1~59℃で発芽、100℃10分の加熱で大部分が不活化するが、芽胞は100 ℃30分の加熱にも耐え、芽胞の形で土壌などを中心に自然環境に広く分布します。
70%の皮膚消毒用のエチルアルコールでも不活化されないという報告があります。そのため、速乾性擦式消毒剤に使用されるエタノール系消毒剤に耐性を獲得した菌が残存し十分に滅菌されません。
特徴
セレウス菌は、土壌細菌のひとつで、土壌・水・ほこり等自然環境に広く分布し、農作物等を濃厚に汚染しています。
この細菌は、食品中で増殖するとエンテロトキシンをはじめ、いくつかの異なる毒素を作ります。従って、この菌による食中毒は、この毒素の違いにより、「下痢型」と「嘔吐型」の2つのタイプに分類されます。日本では、後者の「嘔吐型」が殆どで、米飯、焼き飯によるものが圧倒的に多く、全体の73%を占めています。
また、食品中では芽胞を作って生存するため、熱に抵抗性があり、100℃27~31分間(米飯中では、22~36分)の加熱を必要とします。
増殖する至適温度は28~35℃です。
感染経路、潜伏感染、主な症状
セレウス菌は、増殖に伴って、2種類の毒素を産生します。
嘔吐型毒素と下痢型毒素です。セレウス菌による食中毒では、嘔吐型と下痢型の2種類の症状が見られ、嘔吐型毒素が嘔吐型の症状を、下痢型毒素が下痢型の症状を起こしていると考えられます。
毒素の違いにより、以下の2つのタイプに分類されます
下痢型
増殖箇所:体内
潜伏期間:6~16時間
主な症状:腹痛、下痢(ウェルシュ菌食中毒に類似)
毒素 :下痢毒素は、56℃/5分で毒力が失活
原因食品:肉、ミルク、野菜、魚、弁当、プリン等
食後6~15時間で、水のような下痢、腹痛が出現します。吐き気を伴うことがありますが、嘔吐や発熱はまれです。
症状が24時間は持続します。ウェルシュ菌による食中毒とよく似ています。
下痢型毒素は、45℃で30分の加熱には安定ですが、56℃で5分の加熱では毒力が失活します。下痢型毒素は加熱によってこわれやすいので、食前の十分な加熱が予防に役立ちます。
嘔吐型
増殖箇所:食品中
潜伏期間:1~5時間
主な症状:吐き気、嘔吐、腹痛(黄色ブドウ球菌食中毒に類似)
毒素 :嘔吐毒は、熱に強く126℃/90分でも安定しているので注意が必要である
原因食品:お米、焼飯、焼きそば、スパゲッティ、イモ、メン類、チーズ製品等のデンプンを含む食物
食後30分から6時間で嘔吐が出現します。ときどき、腹痛や下痢が見られる場合もあります。通常、発熱は見られません。
嘔吐型の症状は、24時間未満に収まるのが通常です。黄色ブドウ球菌による食中毒で見られる嘔吐症状とたいへん似ています。
嘔吐型毒素は加熱してもこわれにくいので、食前の加熱では予防できません。嘔吐型毒素は12℃で90分加熱しても安定です。
セレウス菌による食中毒は、通常、ヒトからヒトへは感染しません。なお、免疫が低下した人たちでは、セレウス菌は、菌血症、心内膜炎、髄膜炎、肺炎を起こすことがあるので注意が必要です。
また、セレウス菌は、外傷後の眼内炎とも関係するとされています。
原因となる食品
セレウス菌による食中毒の原因食品としては、下痢型の場合には、肉、ミルク、野菜、魚などいろいろな食物が原因となる場合があります。
嘔吐型の場合には、お米と関係している場合が多いです。イモ、メン類、チーズ製品といったデンプンを含む食物が関係している場合もあります。これらのものが混じっているソース、プディング、スープ、メン類、サラダ、鍋焼き料理などが関係する場合もあります。イギリスの刑務所で起こった嘔吐型の集団発生の場合には、ビーフシチューが原因食品でした。前の日に調理した野菜をシチューに入れたのが原因となったと考えられています。
抗生物質
抗生物質としてセレウス菌に感受性があるのは、クロラムフェニコール、アミノグリコシド、バンコマイシン、クリンダマイシン、エリスロマイシンです。
しかし、抗生物質を使用しなくても対症的に脱水に対する点滴などの治療をしているだけで短期間のうちに軽快するので、抗生物質が使用されることは少ないです。