インフルエンザウイルス Influenza Virus
インフルエンザウイルス Influenza Virus
インフルエンザの原因ウイルスです。
病原体について
インフルエンザウイルスはオルトミクソウイルス科に分類され、A型、B型、C型が存在しています。
A型は8本の遺伝子(一本鎖RNA)を持っており、毎年問題になります。HAが16種類、NAが9種類存在し、多くの動物に感染します。1つの細胞に異なったウイルスが同時に感染すると、遺伝子が混ざりあった交雑ウイルスが生まれ、144種類も存在することになります。まさしく、抗原不連続変異(aNtigeNic sHift)が起きています。
B型は8本のRNAを持っているがウイルス表面のHA(赤血球凝集素)、NA(ノイラミニダーゼ)遺伝子が一種類ずつなので交雑変異は起こりません。遺伝子上での突然変異による地域的な流行(エピデミック)は起きますが、地球規模における流行(パンデミック)は起こしません。
C型は7本のRNAを持ち、幼児がよく感染しますが、長期的に免疫を持続するため、深刻な疾患は起こしません。
A型
地球規模(パンデミック)
毎年流行し、HA16種類✕NA9種類により144種類の交雑ウイルスが存在。抗原不連続変異が起きている。
B型
地域規模(エピデミック)
地域的流行でとどまります。HA1種類✕NA1種類により交雑変異は起きません。遺伝子上の突然変異で地域的に流行は起きます。
C型
主に幼児
長期的に免疫が持続し、深刻な疾患にはつながらない。
変異について
遺伝子上のアミノ酸一つの突然変異の蓄積、抗原連続変異で高病原性に変化、ワクチンが効かないHAの抗原性変異が起こります。
渡り鳥の鴨の腸管ではHA蛋白が16種のウイルスに増殖します。大量のウイルスが糞便として排泄され、冬季はシベリアの湖沼に凍結保存されています。しかし、鴨は病気にならず、南下した鴨から様々な動物に感染し、高病原性鳥インフルエンザはニワトリの全身で増殖します。
その理由として、季節性のインフルエンザウイルスの場合は、HA蛋白が局所(気道、腸管)に存在するプロテアーゼの働きにより開裂し、そのほかの局所の細胞内で感染増殖しないからです。
しかし、H5N1型強毒ウイルスのHA蛋白は、全身に存在するプロテアーゼによって開裂されることにより全身で増殖し、死亡したトリの体表からもウイルスが飛散します。それに触れたヒトはウイルスに暴露され、稀ですが肺胞に到達して感染してしまう場合があります。
感染経路
飛沫感染、飛沫核感染、接触感染
咳・くしゃみなどによる飛沫感染が主ですが、汚染した手を介して鼻粘膜への接触で感染する場合もあります。
人混みをさけ、帰宅後はうがい、手洗いを欠かさないことが大切です。
特に、インフルエンザにかかっている恐れがあって、セキなどの症状のある人は、周囲の人を感染させないために、マスクの着用が望ましいです。マスクを持っていない場合には、セキ・くしゃみの際に、ティッシュなどで口と鼻を押さえ、他の人から顔をそむけ1メートル以上離れることが望ましいです(咳エチケット)。また、そのような時などに用いられた、鼻汁・痰などを含んだティッシュを、すぐに蓋(ふた)付きの廃棄物箱に捨てることができるような環境の整備も望ましいです。
潜伏期間と主な症状
インフルエンザは鼻水、くしゃみ、咳などの風邪症状だけでなく、高熱、頭痛、筋肉痛などを起こし、気管支炎や肺炎を併発することもある重篤な全身感染症で高齢者などでは死亡原因となることもあります。
子どもたちでは、同時に中耳炎や嘔気・嘔吐などが見られることもあります。
インフルエンザは、突然の発病が特徴的です。3~7日で症状は軽快する場合が多いですが、咳や気分不快などが2週間以上続く場合もあります。
慢性の呼吸器疾患や心臓疾患を持っている人では、その病状を悪化させることもあります。
肺炎を併発する場合には、肺炎は、主として、インフルエンザウイルスによる場合、細菌による場合、他のウイルスや細菌とインフルエンザウイルスとによる場合とがあります。
小さな子どもたちでは、突然の高熱が最初の症状で、他のウイルスや細菌による感染症とまぎらわしいことがあります。また、小さな子どもたちでは、突然の高熱のために、熱性痙攣(けいれん)が見られることもあります。インフルエンザは、また、ライ症候群や脳症とも関係します。
インフルエンザの潜伏期間は、1~4日、平均で2日です。
大人(おとな)の患者では、症状が出現する前日から発病後5日までが、周囲の他の人に感染する可能性がある時期です。
子どもの患者では、この周囲の他の人に感染する可能性がある時期は長く、発病の数日前から10日以上にわたって周囲の他の人に感染する可能性があります。この間の患者のインフルエンザウイルスを含む鼻腔、咽頭、気道粘膜の分泌物からの咳による飛沫を吸い込んでの感染が多いと考えられます。
なお、重度に免疫が抑制された人がインフルエンザに感染した場合には、数週間から数ヶ月にわたって、インフルエンザウイルスを排出することがあります。
インフルエンザは、毎年、冬季の12月ころから翌年3月ころにかけて流行します。A型は大流行しやすいですが、B型は局地的流行にとどまることが多いです。
急激に発病し潜伏期が短いため、流行の期間は比較的短いけれども、流行は爆発的で、地域的には発生から3週間以内にピークに達し、3~4週間で沈静化する場合が多いです。
また、インフルエンザは 学校感染症の一つです。
学校保健安全法での登校基準は、「インフルエンザ(鳥インフルエンザ(H5N1)及び新型インフルエンザ等感染症を除く。)は、発症した後五日を経過し、かつ、解熱した後二日(幼児にあっては、三日)を経過するまで出席停止とする。ただし、病状により学校医その他の医師において感染のおそれがないと認められたときはこの限りではない。」となっています。潜伏期間が短いことから、学校での流行が懸念されるときには、学級の臨時休業も有効とされています。
死亡例
インフルエンザ関連の死亡としては、肺炎を起こしての場合があります。また、肺や心臓等の慢性疾患が悪化しての場合等があります。
インフルエンザ関連の死亡は、高齢者に多いです。日本では毎年1,000万人が感染し1万人近く方がお亡くなりになりますが、そのほとんどが高齢者になります。
ワクチン接種について
対策としてヒトへのワクチン接種がありますが、H5に限定しても、開発製造期間の長さを含めると、抗原連続変異(antigenic drift)による変異に対応できるワクチン開発は容易ではありません。
ワクチンの感染予防効果
自然感染による症状の悪化がワクチンにより抑制(34~55%)されることは日本でも確認されていますが、ワクチンには感染防衛効果はなく、ワクチン接種看でも気道でウイルスは増殖し、咳やくしゃみにより排泄されるので感染源になり得ます。しかし、症状の抑制効果は期待できます。
日本でニワトリへのワクチン接種を採用しない理由は、接種後もウイルスは増殖し、排泄されるのでヒトへの馴化株(適応してしまう変異)の出現が懸念されるからです。
抵抗力が低下している高齢者がワクチン接種を受けると、生死を分ける程の大きな効力(82%)が見られ、米国では2000年にワクチン接種を勧める年齢を65歳以上から50歳以上に引き下げる勧告がなされました。
医療福祉関係の従事者は流行期の前(11月頃)にワクチン接種を行います。
日常の心がけ
- 目常的には、頻繁な手洗い、うがい、感染者のマスクの使用等は重要な対応策です。マスクは再利用可能ですが、ヤカンからの蒸気や電子レンジ等で、まめに熱処理するのが望ましいとされています。
- 非感染者は厚めのマスクを必要としますが、感染者は薄い二層の紙マスクでも咳の風速は10分の1になると報告されているため、感染源になる確率は著しく低減します。
- 自然感染の場合、潜伏期間は1~4日(平均2日)で、症状が出現する前日から5日までが、周囲の人に感染する可能性があります。