ムンプスウイルス Mumps Virus
おたふく風邪(流行性耳下腺炎)の原因ウイルスです。
病原体について
病原体はムンプスウイルスで1945年に初めて分離されました。
ムンプスウイルスは、麻しん(はしか)と同じパラミクソウイルス科に属するRNAウイルスで、パラインフルエンザやニューカッスル病のウイルスと同じグループのウイルスの一つです。
ムンプスウイルスは、患者の唾液・髄液・尿・血液・母乳等から分離されます。
特徴
流行性耳下腺炎ウイルス(おたふく風邪)とも呼ばれております。年間を通して晩冬から早春にかけて見られることが多いです。
全身の腺組織で増殖し、唾液による接触感染または飛沫感染を引き起こします。男子の場合は精巣でのウイルス増殖の結果、睾丸萎縮になり、無精子による不妊症になる場合もあります。
時にムンプス髄膜炎を起こしますが、細菌性髄膜炎と比べ、予後はよいです。
感染経路
患者の呼吸器の飛沫を吸い込んで、あるいは患者の唾液で汚染されたものと接触して、鼻や口を通して鼻・咽頭部からウイルスを取り込むことによりウイルスに感染します。
体内に侵入したウイルスは、鼻・咽頭部及びその部のリンパ節で増殖し、侵入してから12~25日後に3~5日間のウイルス血症(血液中にウイルスが存在する状態)を起こします。ウイルス血症の間に、ウイルスがいろいろな身体組織に広がります。唾液腺(耳下腺等)・すい臓・睾丸・卵巣といった腺組織および髄膜です。
そのような組織での炎症が、耳下腺炎や無菌性髄膜炎といったムンプスに特徴的な症候なのです。
潜伏期間と主な症状
潜伏期は通常16~18日(12~25日のこともあります)です。
最初の症状は、筋肉痛、食欲不振、気分不快、頭痛、寒気、微熱あるいは中等度の発熱などです。これらの症状が12~24時間続いてから、耳下腺の症状が出てきます。ただし、これらの症状は全くない場合もあります。
耳下腺炎は、もっとも典型的な症状で、感染した人の30~40%に出現します。
噛んだり飲み込むとき、特に酢やレモンジュ~スのような酸味のある液体を飲み込むとき痛みを感じるのが、最初の症状です。炎症を起こした耳下腺は触れると痛いです。耳下腺炎の進行とともに、しばしば39.5~40度に達する発熱が見られます。この24~72時間の発熱の間は、圧痛が強いです。
耳下腺の腫れは、2日目にピ~クを迎え、耳の前や下の部分が腫れます。両側が腫れる場合が多いですが、片側のみ腫れる場合もあります。片側しか腫れなかった場合でも、ちゃんとした免疫がつきます。
両側が腫れた様子から、「おたふく風邪」と呼ばれるようになりました。
「耳下腺炎が感染した人の30~40%に出現するとありますが、ムンプスウイルスに感染しても、20~30%は無症状です。不顕性感染といい、ちゃんと免疫はつきます。残りの40~50%は、ムンプスに特徴的な症状以外の症状だけか、呼吸器症状にとどまります。
思春期後の男性で、最も多い合併症は、睾丸炎です。20~30%で起きます。
約30%は両側とも腫れます。通常、睾丸の腫れ、圧痛、嘔気、嘔吐、発熱が急に出現します。歩き回っているとさらに睾丸の腫れと痛みがひどくなるので、ベッド上安静が必要です。睾丸の痛みと腫れは1週間で良くなりますが、圧痛は数週間続くことがあります。患者の50%に睾丸の部分的な萎縮を認めますが、不妊はまれです。
紀元前5世紀にヒポクラテスがすでにムンプスを耳下腺と睾丸とが腫れる病気として記述しています。昔から、動員された兵士たちがかかる病気としてムンプスは知られていました。
思春期後の女性のムンプス患者の5%に、卵巣炎が起こります。虫垂炎と似た腹痛を起こすことがあります。不妊とは関係ないと考えられています。
ムンプスは、子供時代に聴力を失う主要原因の一つとされています。20,000例中、約1例で聴力を失います。約80%が片側のみで、突然発症します。
ワクチンについて
一時期、日本でも欧米と同様に各々のワクチン株をメーカー指定にした麻しん、風疹、ムンプスの3種混合ワクチン(MMRワクチン)が使用されていましたが、ムンプスワクチンによる髄膜炎の頻発があり3種混合は中止されています。
現在、メーカー独自の単品によるムンプスワクチンが使用されています。
欧米ではMMRワクチンが普及していますが、使用されているムンプスワクチン株は髄膜炎を起こしにくいもののようです。一方、日本で使用している麻しんワクチン株は発熱等の副作用が少ないとされています。
弱毒生ワクチンの開発はウイルス学的ばかりでなく幼児への臨床試験の難しさ等、日本では困難であると言われております。