結核菌 Mycobacterium Tuberculosis
結核菌 Mycobacterium Tuberculosis
結核の原因細菌です。
病原体について
結核菌は、マイコバクテリウム科マイコバクテリウム属に属し、他のマイコバクテリウム属細菌とともに抗酸菌と呼ばれる細菌群の一種です。
特徴
結核とは、結核菌という細菌が直接の原因となっておこる感染症です。
一般には肺結核をいいますが、どの臓器にも起こりえる感染症であり、肺以外には、腎臓、腸、骨、リンパ節などによく見られます。
結核に感染しても、普通は免疫の働きで発病を防ぎ、感染した人で一生のうちに発症するのは10人に1〜2人程度といわれています。
感染経路
結核は、はげしいせきや痰といっしょに結核菌を排出している結核患者が感染源になります。
その排出された結核菌を周りの人が直接吸い込むことによってうつります。
潜伏期間と発病
結核菌が肺に入って増殖を始めると、肺にはまず軽い肺炎のような変化が起きます。
同時に肺のリンパ節が腫れるようなことも起きますが、これらの変化は軽いので、たいていは気づかないのが普通です。
その間に人間の身体のほうに結核に対する「免疫」、つまり抵抗力が出来あがります。こうなると、人体のほうが結核菌よりも強くなるので、出来かかった病巣は治り、結核菌は抑え込まれてしまいます。結核菌が肺に侵入してから2~3カ月までにこのようなことが起こります。
しかし、抑え込まれた結核菌はそのまま殺されたというわけではなく、肺の中で冬眠状態に入ります。
そして人体の側の免疫力が下がることがあれば、いつでもまた暴れ出します。これが結核の「発病」です。成人の結核はこのようにして感染を受けてから1年以上、長い場合には何十年も経ってから、菌が人の「弱み」に乗じて暴れ出した結果起こる病気です。時として感染直後に十分な免疫の出来にくい場合があると、初期の病巣がそのまま進行して病気になることもあります。
赤ちゃんや子供の結核の大部分、青年がかかる結核の一部はこのようにして発生します。
主な症状
最初は炎症から始まります。
肺ならば肺炎のような病気です(肺の表面近くに病巣ができれば、炎症の結果生じた浸出液は肺を包んでいる胸膜からしみ出して胸膜炎となります)。結核菌は肺に巣食うことが多いのですが、 人体のいろいろなところ(臓器)にも病気を起こします。
初期の炎症が進むと、やがて「化膿」に似て組織が死んで腐ったような状態になります。この状態の時期が肺結核ではかなり長く続き、レントゲンなどに写る影の大半がこの状態の病巣です。その後死んだ組織がどろどろにとけて、気管支を通して肺の外に排出されると、そこは穴のあいた状態になります。
これが空洞です。
空洞の中は空気も十分にあり、肺からの栄養もあるので結核菌には絶好のすみかとなり、菌はどんどん増殖します。空洞をもった結核患者が「感染源」になりやすいのはこのためです。
このような病巣からの菌が肺の他の場所に飛び火したり、またリンパや血液の流れに乗ったりして、他の臓器に結核の病巣を作ることもあります。こうして結核は肺全体、全身に広がって行きます。そして最後には肺の組織が破壊されて呼吸が困難になる場合や、 他の臓器の機能が冒され生命の危機を招くことになります。
BCGについて
ジェンナーが牛の天然痘ウイルスを人体に植えて人に免疫をつけたのが天然痘(ほうそう)の予防接種でした。
同じように毒力をぐっと弱めた結核菌を接種して、軽い結核のような反応を局所に起こさせておき、本当の結核菌が後からきた場合に対抗する免疫をつけておく、というのがBCG 接種のねらいです。
BCGは特に子供の結核の予防に有効なことが証明され、しかも最も安全な予防接種として世界で広く用いられています。日本では生後4~6か月までに1回受けるように勧められています。
ツベルクリン反応検査とQFT検査について
結核菌の感染を受けると、病気になる、ならないとは関係なく、人体には結核に対する免疫、つまり抵抗力ができます。
このような人に結核菌のある成分を注射すると、人体は結核菌が侵入したと思って敵対的な反応(アレルギー)を起こします。これを皮膚で起こさせたのがツベルクリン反応です。
すなわち「結核菌のある成分」がツベルクリンで、正式には「(精製蛋白誘導体)」というタンパク質です。これを少量水に溶かして皮内に注射すると、アレルギーのある人、つまり結核の感染を受けた人では徐々に注射部位が赤く腫れ、しこりが触れるようになり、2日目に最も強くなります。アレルギーのない人、つまり結核菌に感染したことのない人ではほとんど反応はありません。このように結核のアレルギーの有無で、結核菌に感染したか否かを判定することができるのです。
なお、近年は結核菌群と一部の非結核性抗酸菌に特異的な抗原を用いた結核感染の診断方法が開発され、BCGによるツベルクリン反応と結核菌感染によるツベルクリン反応が鑑別可能になりました。
薬剤耐性結核菌について
結核を薬で治すことは人類の長い間の夢でした。
1944年、ワックスマンがカビから作り出したストレプトマイシンはその劇的な効果で、まさに「魔法の弾丸」と呼ばれるにふさわしいものでした。
続いてパス、ヒドラジドなどが登場し、「結核の治療は化学療法」ですることが確立しました。以後も次々と開発され、現在「抗結核薬」として広く認められているものは10種類を越えます。
結核菌はしぶとい菌であるため、ある程度の期間薬を投与しなければぶり返します。またその間に薬に慣れ、耐性をもってしますので、2種類以上の薬を一緒に使うのが鉄則です。最新の方式はリファンピシン、ヒドラジドという2種類を軸に最初4剤、続いて2~3剤を合計6カ月使う、というものです。
結核菌に「耐性」を作らせないためには
- 薬をきちんと服用する(のんだり、のまなかったりではダメです)
- 十分強い薬を複数組み合わせて治療する
上記の2点です。
不幸にもこの原則が活かされずに薬剤耐性になった人から出た結核菌で感染を受けた人は、発病したときから耐性ですから治療はかなり厄介です。
大切なのは耐性を作らないための患者・医師の連携プレーといえます。