腸炎ビブリオ Vibrio Barahaemolyticus
腸炎ビブリオは、日本を含めアジアでは、食中毒の原因となる病原体としてよく見られます。
病原体について
腸炎ビブリオは、コレラを起こすコレラ菌と同じビブリオ科に属す細菌です。
人食いバクテリアとも呼ばれるビブリオ・バルニフィカスとは、大変近い仲間であり、共通する点が多いです。腸炎ビブリオの予防対策は、ビブリオ・バルニフィカスの予防対策でもあります。
腸炎ビブリオは、海水中で増殖し、好塩菌とも呼ばれます。
特徴
腸炎ビブリオは、日本を含めアジアでは、食中毒の原因となる病原体としてよく見られます。
腸炎ビブリオによる食中毒の発生は、夏季に多いです。あたたかい海水中で腸炎ビブリオはよく増殖し、冬季に比較して、夏季の海水中で、高濃度に見られます。
この菌は好塩菌の一種で、沿岸の海水中や海泥中にいます。沿岸海域における腸炎ビブリオの数は海水温に比例し、一日の最低気温が15℃以上、海水温が20℃以上になると海水中で大量に増殖します。このため、海水温度が高く、海水中に腸炎ビブリオが多い時期に獲れた魚介類には、腸炎ビブリオが付着しており、漁獲後や流通過程、調理中などの不適切な取扱いにより増殖し、食中毒の原因となります。
また、まな板や調理器具を介した二次汚染による食中毒も発生しています。
腸炎ビブリオは他の食中毒菌よりも速く増殖できる特徴があります。しかし、この菌は真水(水道水)の中では増殖しません。この菌による食中毒の発生時期は、5~6月から次第に増加し7月から9月の夏場に集中しますが、最近では東南アジアなどからの魚介類により、冬場でも腸炎ビブリオによる食中毒がみられます。
原因となる食品
魚介類の刺身やすし類が代表的なものです。
また、生の魚介類を調理した後、調理器具や手指などを介して二次汚染された野菜の一夜漬け等も多く、原因食品となります。
潜伏期間と主な症状
潜伏時間は約10~24時間(短い場合で2~3時間)で、激しい腹痛、下痢などが主症状です。発熱、はき気、おう吐を起こす人もいます。
腸炎ビブリオに摂取すると、しばしば腹痛・吐き気・嘔吐・発熱・悪寒をともなった水のような下痢が起こります。摂取してから24時間以内に起こるのが通常です。
患者が他の人を感染させることは少なく、症状は3日間続きます。
重症となることはまれですが、重症となることは免疫の働きが弱まっている人たちで多いです。また、腸炎ビブリオは、海水に傷口がつかったような場合に、傷口に感染することがあります。軟部組織に炎症が広がり、敗血症を起こすこともあります。
抗生物質
腸炎ビブリオによる食中毒では、軽症で治療を必要としない場合がかなりあります。ただし下痢で失われる水分を充分に補給する必要があります。
重症例では、テトラサイクリン、アンピシリン、ciprofloxicinといった抗生物質が使われることがあります。
注意すること
- 魚介類は、調理前に流水(水道水)で良く洗って菌を洗い流すこと。
- 魚介類に使った調理器具類は良く洗浄・消毒して二次汚染を防ぐこと。
- 魚介類を調理したままのまな板で、野菜などを切らない(まな板を使い分ける)こと。
- 夏季の魚介類の生食は十分注意し、わずかな時間でも冷蔵庫でできれば4℃以下に保存すること。(腸炎ビブリオは低温では増殖できない。また、低温で腸炎ビブリオの増殖は抑えられるものの、凍結しても短期間では死滅しない。)
- 冷凍食品を解凍する際は専用の解凍庫や冷蔵庫内で行なうこと。
- 加熱調理する場合は中心部まで充分に加熱すること(61℃、10分以上)。